最終回の今回は「海外で働ける資格」について考えてみよう。
まず働く国から変えてしまうという発想を持つ人は結構多いもので、この手の記事はよくビジネス自己啓発・お稽古事系雑誌で取り上げられる。しかし、その大半は信用性に欠ける。現に海外で働いている人間を取り上げて、その人が持っている資格を紹介しているだけのことが多いのだ。「海外で働いている人の資格」ではあっても、海外で働ける資格ではないのである。数学の問題で言えば、証明の順番が逆。中間点ももらえない0点の解答である。
英語の資格?冗談じゃない。最近見かける外語学校の広告によると、英語をしゃべれる人間は近い将来30億人になるのだそうだ。「ますます英語が必要な時代」とか続けているが、論理が破綻している。英語だけで暮らせる時代じゃない、という帰結にしなければ、話が通っていない。そもそも英語は、資格ではなく、その資格が保証するスキルが重要なのである。
では、海外で暮らせる資格、海外で働ける資格というのはないのだろうか。スキルと掛け合わせると、いくつかは確実になる。たとえば医者。行く先での医師資格が取得できれば、医師として働ける。ただし、試験が簡単なわけではない。弁護士も同様で、行く先で弁護士資格を取得するか、弁護士資格をスキルとして、弁護士ではない仕事をするか、だ。海外に行くより前に、最初のバーが高すぎる。
ただしこうしたハイエンド資格でなくとも、実際には海外で働けることがかなり確実な資格は、ある。発想としては「就労ビザが出やすい資格」を探してみることだ。
オススメ筆頭格は
歯科技工士
意外かもしれないが、筆頭格は「歯科技工士」かも知れない。歯科技工士は歯科医師の指示に従って、入れ歯や詰め物、ブリッジや矯正装置を作る専門職のことだ。歯医者さんの優しいお姉さんは歯科衛生士で、仕事がまったく違う。歯科技工士は歯科医院に勤めているとしても、表にはほとんど出てこない。多くは歯科技工所で仕事し、独立開業している名技工士もいる。ある種、職人技の世界なのである。
そしてこの技術は、世界的に見れば日本人の優秀さがつとに知られているもの。しかも自国内に技術者が不足している例が多い。これは就労ヴィザを積極的に出す専門職の条件なのである。ヴィザのことだから軽々にはいえないが、ヴィザ取得条件を個人のスキルや資格、学歴で積み上げる「ポイント制」の国々で、歯科技工士の資格は4回転サルコウ・ジャンプほどの得点力を持つのである。