「メディアの方に言われて知った」――。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長人事は異例の展開を見せた。女性蔑視発言の森喜朗会長が独断で、元日本サッカー協会会長の川淵三郎氏に打診。かつて財務省の大物事務次官として知られた組織委事務総長の武藤敏郎氏は事前に相談を受けておらず、報道が出た11日深夜に慌てて川淵氏に電話していた。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)
自宅前で記者にリップサービスした川淵氏
武藤事務総長から深夜に電話で“説明”
「記者のみなさんがあれだけ家にわーっと集まったら、僕もサービス精神でお話しせざるを得ない」――。
女性蔑視発言が国内外で猛批判を招き、辞意を表明した東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長。その森会長が後任にと自ら打診し、既定路線のように報じられた川淵三郎・元日本サッカー協会会長は2月12日、森会長が正式に辞意表明した組織委員会の理事と評議員の懇談会終了後、急きょ報道陣を集めて釈明した。
「(森会長に)もらい泣きしちゃって」「外堀が埋まっていて、断れる状況じゃなかった」――。スポーツ紙「スポーツニッポン」のウェブサイトによると、川淵氏は森会長と面会して打診を受けた11日の夜、自宅前に集まった報道陣に対して、このように後任会長就任への“決意”を語っていた。
だが、そこから事態は異例の展開を見せていく。
川淵氏によると、11日深夜に複数回、組織委の武藤敏郎事務総長から電話で会長選出に関するルールや条件の説明を受けたという。組織委では、会長になれるのは理事であり、理事になるには評議員会で選ばれなくてはならない。そして川淵氏は現在、理事ではなく評議員だ。「辞退しろとは言わなかったが、暗に求めていたのだろう」と、川淵氏は感じ取った。
さらに翌12日朝、橋本聖子五輪担当大臣は閣議後会見で会長人事に言及し、「組織委員会の理事会で決定される。今は何も決定していない状況」と川淵氏を後継とする流れをけん制した。
そうしたやりとりを経て、12日午後3時に予定されていた組織委の理事と評議員の懇談会より前に、川淵氏の「会長就任辞退」の一報が世間を駆け巡った。
また、その懇談会でも、会長選出のルールを無視するような川淵氏の事前の“決意表明”に対し、反発する声が上がったと川淵氏が自ら明らかにした。
森会長も川淵氏も、会長選出のルールや条件は当然知っていたはずだが、森・川淵ラインで決めておけば既定路線になると、2人とも素朴に信じていたのだろうか。