この母親はまず、叩かなくなった。
 そして、怒鳴らなくなった。

 やがて子どもをほめるようになり、ときおり面接でも慈しみの表情を浮かべるようになった。

 娘は以前よりは母の前で安心していられるようになり、笑うことも増えたようである。

 母と娘の関係はまだ始まったばかりで、これから乗り越えなくてはいけないことがまだまだあるだろうが、とりあえず苦難の序章には終止符を打ったと言えるのではないだろうか。

 濃密な母娘関係の中で、ほんのちょっとだけ距離を取る。

 それができないために不毛な憎悪の連鎖に呑み込まれてしまっている母娘は多い。それだけ母娘の結びつきは強固だといっていい。

 しかし、苦しい中で少し方向転換する勇気があれば、心の重荷は思いのほか軽くなるものである。

絶望と怒りが生み出す悪しき連鎖

 母娘の歪んだ関係が生じる原因は、実は母親だけにあるのではない。