「どんなに叩かれても、冷たい言葉を投げられても、いつも私は、
母に認めてほしい、ほめてほしい、と思っていました…」
カウンセリングに訪れた娘たちは、そんな言葉をよく口にします。
人はたとえ、それがどんな人物であろうと、どんな仕打ちを受けたとしても、育ててくれた人への愛着を抱くもの。その一方、血のつながりのある母娘だからこそ、積極的に娘を憎悪の対象にするという酷な母のケースも多いのです。
20年以上カウンセリングの現場に身を置くカウンセラーが、母と娘の悪しき関係を乗り越え、自分の力で人生を歩み始めた娘たちのケースを紹介します。(こちらは2013年10月28日付け記事を再掲載したものです)

前を向いて生きるために、<br />母と縁切りするしかない娘もいるPhoto: Adobe Stock

「えっ?そういうのも虐待なの?」

「母には、子どもの頃からよく叩かれていました。

 ゲンコツで頭を殴られたり、うずくまったところを蹴られたりして……。

 そのあとは決まって『あなたのことは知りませんからね』と、ご飯抜きになりました」

 これは、私のカウンセリングルームに相談にきたN美さんの告白だ。

 大学生のN美さんは当初、「なかなか就職が決まらない」といってカウンセリングルームを訪れた。でも、それは口実で「実は別の相談をしたいんですが」と言って話し始めたのは、自分の母親(50代)のことだった。

 母親は機嫌が悪いと、集中的にN美さんに当たるのだという。

 ささいなことを大声で叱りつけたり、N美さんを無視したり、わざとN美さんの食事だけ作らないという仕打ちもたびたびあった。

「それは明らかに虐待だね」と私が言うと、
「えー、そういうのも虐待に入るんですか?」

 N美さんは驚いた顔をしていたが、それだけそんな出来事が日常的であったということだろう。

袰岩秀章【ほろいわ・ひであき】
埼玉大学人間社会学部心理学科教授、カウンセリングルーム・プリメイラ代表
日本集団精神療法学会理事・認定グループサイコセラピスト、日本心理臨床学会・日本精神分析学会正会員、Senior member of Academy for Eating Disorder、Life Time member of World Federation for Mental Health。他に、東京都立教育研究所上級カウンセリング講座、スクールカウンセラー養成講座、滋賀県精神保健センター上級集団精神療法講座、千葉県総合教育センター上級カウンセリング講座、埼玉県学校カウンセリング上級研修会等の講師などを歴任。
1994年、国際基督教大学にて博士(教育学)取得。同年、日本女子大学専任カウンセラーに就任。
大学院生であった1992年にカウンセリングルーム・プリメイラを妻で心理カウンセラーである袰岩奈々と開設する。