ICTに疎い不動産業界にも
「不動産テック」の波

 不動産業界はICTに遅れた業界ではあったが、最近は「不動産テック」といった言葉も生まれ、にわかに活気づいている。業界の特性上、どうしても古臭くてローテクな人が多いものの、自分たちの実利につながるものには前向きな意向も持ち合わせている。

 例えば、これまで賃貸物件に関する「重要事項説明」は不動産会社の担当者が対面で行うよう定められていたが、2017年以降、「IT重説」(テレビ電話やオンラインで説明する形)も可能となり、不動産会社の業務負担をだいぶ軽減した。また、新型コロナウイルスの感染拡大による「巣籠もり需要」の中の不動産探しでは、ネット上で疑似内覧ができる物件の成約率が上がっている。

 内覧から契約までを行う仲介会社からすると、真っ先にスマートロックの普及が期待される。日本ではこれまで、内覧したい物件の鍵はわざわざ管理されている場所へ取りに行き、内覧後に同じ場所へ返却するということを行っていて、非常に非効率だった。米国などでは、鍵の格納はフォーマットが一元化されており、暗証番号でその家のキーボックスを開ける仕組みで運用されているため、鍵をもらいに行く手間はない。そのため、不動産の管理会社や仲介会社は「スマートホーム」の普及推進役となるかもしれない。

 オーナー(物件所有者)の立場から考えると、先ほどのアンケート結果を知れば、スマートホームへの投資に前向きになる人は多くなるだろう。なぜなら、投資額に対するリターンは20%を上回ることは確実視されるためだ。家賃を上げられるのであれば投資に拍車がかかる。ペット可の物件であれば、Webカメラ機能付きにすることで、入居率向上につながる可能性は高いだろう。

 日本の「賃貸住宅オーナー」は、次の3つに大別される。

 1つめは、ハウスメーカー系列のサブリース会社だ。管理戸数からすると、実質的に日本一のオーナーはこうしたサブリース会社だが、投資したら、賃料の増額分はすべてサブリース会社の実入りとなる。

 2つめは、J-REIT(日本版不動産投資信託)やファンドなどの運用会社である。すでに10万戸以上のストックを持っており、運用益が増えれば投資家受けもいい。

 3つめは、個人投資家だ。オーナーでもあるので、年間の収益率が上がるだけでなく、売却時の価格も家賃を上げた分だけの増額が見込める。投資のし甲斐があるというものだ。こうしてオーナーの先行者利益競争が始まるだろう。

スマートホームの導入比率は1%
普及と評価に時間がかかる見込み

 前述でふれた通り、現状はスマートホームの導入比率は1%程度しかない。住みたくても物件自体が少ないため、最優先の条件として探す訳にはいかない。そして実際に利用した人もまだ少ないので、その恩恵をこうむっている人も少ない。普及してその評価が固まるまでには一定の時間がかかるだろう。

 しかし先進国では、スマートホームの普及は加速中だ。海外にいくつも拠点を持つ米国の経営コンサルティング会社、A.T.カーニーが作成した調査報告書では、2020年から10年間で、その市場規模は7倍以上になると見込まれている。

 現時点では、稀少性があり、家賃に対して6.7%もの支払い負担額というのは、期待値を得ていると見た方がいいだろう。世の中には「アーリーアダプター」と呼ばれる、新しもの好きが必ずいる。そういう人たちが現時点で率先して入居していく可能性が高い。

 家を快適にするためのニーズは、不動産購入や住み替え、そして「巣籠もり家電投資」としてすでに顕在化している。今のようなコロナ禍においては、非接触型の機能を持つスマートホームが評価されるだろう。照明と人感センサーを連動させたり、スマートスピーカーへ語りかけたりすることで、照明のスイッチに触れずに照明のオンとオフが可能になる。

 まだまだその活用法や可能性はこれから広がっていくのだろう。いずれにしても今年は、スマートホームが普及してその便利さを競う「元年」となりそうなだけに、スマートホームが不動産業界や人々の生活にどのようにインパクトを与えるか、注目しておいてよさそうだ。

(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)