米ドル下落開始から1年
ドル安は本当に終わったのか?
米連邦準備理事会(FRB)が公表する米ドル名目実効為替レートでみると、ドルの上昇トレンドは2011年7月から始まり、2020年3月に終わったようにみえる。ドルは、2011年7月のボトムから2020年3月のピークまで約5割上昇したが、その後の約1年で1割以上も下落した。
ただドルは、今年1月初めからは上昇に転じている。これは、1月5日の米ジョージア州の上院決選投票で民主党の上院支配が決まり、米財政拡大への懸念から米10年金利が1%を超えて急上昇し始めたタイミングと一致する。米長期金利の天井が明確にみえない中、ドル安は終わったとの見方もあろう。
しかし筆者は、最近のドル高が、投機筋(非商業部門)がドル売りの持ち高を圧縮したための短期的な現象であると考えており、再びドル安になると予想する。ドル安が再開する要因として、(1)米長期金利の上昇余地が当面小さいこと、(2)米政策当局がインフレリスクを許容していること、(3)米通貨政策がドル安寄りであることを想定している。
ドル安に戻る理由(1)
米長期金利の上昇には限界
米長期金利が大幅に上昇しないと考えるのは、米景気の本格的な回復やインフレ上昇の懸念が、ある程度織り込まれているためだ。2年先1ヵ月の米OIS金利の水準は、2023年前半の利上げをすでに想定している。一方でFRBは、昨年12月の政策金利見通しで2023年末まで現行金利の維持を示唆した。このため、短い年限の金利がさらに上昇するのは難しいだろう。米国の期待物価上昇率(10年)は2%を大幅に上回っており、市場はインフレ懸念を十分に織り込んでいる。
また、米長期金利が大幅に上昇した場合、リスク資産の下落懸念と安全資産としての米国債への需要増加が、米長期金利の上昇に歯止めをかけるだろう。
そしてFRBは、景気の本格回復までは米長期金利の大幅な上昇を許容しないだろう。FRBは、国債買入の買入平均年限を長期化することで長期金利の低下を促すことができるほか、長い年限の国債を買って短い年限の国債を売るツイストオペを実施するなど、長期金利を抑制する手段を持っている。