長引くコロナ禍の巣ごもり生活の余波で、身体の痛みやコリで悩んでいる方が多いと思います。
そうした人に共通しているのは「手が短くなっている」ことなのです。長時間同じ姿勢を続けていると、筋肉を酷使し続けることになります。
手を伸ばすことにことによって、緊張して縮んだままになっている筋肉が伸び、結構が良くなり、コリや痛みがなくなります。「スマホ肘」「スマホ巻き肩」「ゴリラ腕」という言葉を最近よく耳にすることがあると思います。これも手が短くなっていることが原因になっていると、と語るのは、アスリートゴリラ鍼灸接骨院の院長をしている高林孝光さん。
「まったく知られていませんが、実は慢性的な肩こりや腰痛などのからだの不調の原因は、手が縮こまって、短くなっていることにあります。
現代人の多くは、手が短くなっています。その短くなった手をすっきり伸ばさない限りからだの不調はなくならないのです」と訴えます。
高林さんは、日々多くの患者さんの施術をするなかで、知らない間に手が短くなっている人がほとんどだと気がつきました。
そして手を伸ばす治療法を確立。多くの患者さんだけでなく、種目柄、手の障害が多いバレーボールのジュニアオリンピック東京代表トレーナーに抜擢されたり、車椅子ソフトボール日本代表のチーフトレーナーを任された経験も。
ダイエット、自律神経失調症など心と体の悩みの相談件数は5万件を超えています。
本連載では、高林さんの新著『1日7秒手を伸ばしなさい』に紹介されている方法を特別に抜粋し、ご紹介していきます。
(構成・井上健二 イラスト・山口正児 モデル・梅本美優〔オスカープロモーション]撮影・榊智朗)

手を伸ばすと腰痛がラクになることと、<br />縮こまったインナーマッスル、アウターマッスルの関係とは!?

手を回すと、縮こまったインナーマッスルにもアウターマッスルにもストレッチ効果を発揮する

 私が提案している手を伸ばすための「基本体操」は、肩の前回し、後ろ回しをラッキーセブンで7秒で7回ずつ行うだけ。それで短くなっていた手が伸びてきます。

 なぜ手を回すだけで、手が伸びることについては、連載の第2回でお話しさせていただきました。

 もう一度ご説明すると、秘密は関節と筋肉の作りと性質にあります。関節とは、骨と骨が接するジョイント。運動は、筋肉が関節を動かすことで行われています。

 関節内で、骨と骨は直接接しているわけではありません。骨はとても硬い組織なので、骨同士がじかに接すると衝撃が強いですし、関節がスムーズに動けないからです。

 そこで骨の先端は、軟骨というクッション機能が付いた軟らかい組織で覆われています。さらに骨と骨の間には適度なスペースが設けられており、ダイレクトに触れ合わないような作りになっているのです。

 手を使う機会が多くて緊張すると、肩の関節内で骨と骨が近づきやすくなります。その結果、手が短くなるのです。

 手を回して緊張をほぐすと、肩の関節内で骨と骨の間に適正なスペースが生まれます。それが手が伸びる理由の一つです。

 肩関節以外に、ひじや手首の関節でも、くっつきすぎた骨と骨の間が離れてくれるので、それだけ手は伸びやすくなります。

 手を伸ばして関節のコンディションが良くなると、動く範囲である可動域が広がって、筋肉は動きやすくなり、より緩みやすくなります。

手の筋肉は脚よりもひ弱。だから緊張して短くなりやすく、
肩こり・腰痛につながる

 手が短くなりやすい大きな理由は、手の筋肉はインナーマッスルもアウターマッスルも非力だからです。筋肉は力が弱いほど、緊張しやすく、短くなりやすいのです。

 四本足の動物では、前足も後ろ足も同じくらいの筋力を持っているでしょう。そうでないと効率的に力が発揮できないからです。

 ところが、直立二足歩行を行うヒトでは、下半身の方が強くて、それと比べると上半身の筋肉は総じて貧弱です。

 事実、全身の筋肉のおよそ3分の2、約60%は下半身に集まっています。残りの約15%が体幹、約25%が上半身です。

 上半身の筋肉のなかでも、体幹にある胸や背中といった筋肉は大きくて丈夫です。胸の大胸筋、背中の僧帽筋や広背筋といったアウターマッスルです。上半身のなかでもとくに非力なのは、手の筋肉。

 それをはっきりさせるために、手と脚のサイズを比べてみましょう。二の腕(上腕)の周囲径は、平均的な体格の男性で28cm、女性で25cmほどです。

 それに対して太ももの周囲径は男性で54cm、女性で52cmくらい。男女ともに、二の腕は太ももの2分の1ほどの太さしかありません。

 筋肉が発揮するパワーである筋力は、断面積に比例します。つまり太いほど筋力が強く、細いほど筋力は弱くなるのです。

 手足の断面の多くは筋肉が占めますから、太ももの2分の1しか太さがない二の腕は、半分のパワーしか発揮できない可能性があるのです。

 上半身のなかでもとくに非力な手を、デスクワークなどで日々酷使しているため、筋肉が緊張して短くなり、肩こりや腰痛といった慢性的な悩みにつながっているのです。

 次ページから「基本体操」をもう一度ご紹介していきます。