ロミーズ本社にて
ロミーズの本社は、JR西日暮里駅から歩いて10分ほどのところにあった。建物は古く、いまにも壊れそうだった。ヒカリが乗った旧式のエレベータは、カチャカチャと音を立ててゆっくり上昇した。
エレベータを降りて狭い通路を進むと「ロミーズ」と書かれた看板が見えた。ヒカリはメッキがはげ落ちたドアのノブを手前に引いて中に入った。そこには旧式の電話器が置かれていた。ヒカリは受話器を持ち上げて、経営企画室の番号のシールが貼られたボタンを押した。
「東京経営大学の菅平といいます。猪木順平さんをお願いします」
「菅平様ですね、お待ちしていました。受話器を置いてお待ちください」
しばらくして、きちっとした身なりの男が現れた。髪の毛は、きちんと七三に分けられていて、黒縁のメガネの奥に、愛嬌のある二重まぶたが見えた。
「ヒカリさん?」
と言って、猪木はヒカリを確認して、役員室に案内した。役員室といっても六畳ほどの狭い部屋で、机の上は書類がうず高く積み上げられ、本棚には経営や会計の本がギッシリ並べられていた。
「ビックリした?まあ座ってよ」
猪木はヒカリにソファをすすめた。
「むずかしそうな本でいっぱいですね」
ヒカリがまわりを見回して言った。
「ボクの趣味は勉強でね。で、君は?」
「旅行したり、音楽を聴いたり、おいしいものを食べたり――」
「そんなことばかりしてたら、人間、ダメになるよ」
えっ!?この人は安曇先生のことをどう思っているのだろう。ヒカリはふと思った。