「実習先は、どちらの会社ですか」

 ヒカリはワクワクしながら聞いた。

 すると安曇は「その前に」と言って、こんなことを聞いてきた。

「クラークシップの目的はなんだと思うかね」

「就職に有利になることだと思います」

 ヒカリが真面目な顔で答えると、安曇は首を左右に振った。

「違うね。君がこの1年間で勉強した知識が、なんの役にも立たないことを肌で感じることにある」

「そんな……」

 ヒカリは耳を疑った。あんなにがんばって勉強したことがなんの役にも立たないというのだ。ヒカリには、安曇が何を考えているのか見当がつかなかった。

「解体新書を何度読んでも、手術はできない。それと同じことだよ。大切なのは現場での経験なんだ」

 この1年間、味気ない分厚いテキストを読ませたあげくに、なんてことを言う先生だろう、とヒカリは不愉快に思った。

「知識を学んだだけではなんの意味もないんだよ」

 安曇は立ち上がると、書棚からゼミで使っているテキストを取り出して、机の上に置いた。

 「この中には知識が詰まっている。おおげさでなく、人類が長い歳月をかけて積み上げてきた知識の宝庫といっていい。だが管理会計はちっとも面白くない。違うかな」

 図星だった。

「――たしかにつまらないゼミでした」

 ヒカリは思わず本音を漏らした。