「そうハッキリ言われると立つ瀬がないが、それが事実なんだ。なぜだかわかるかね」
「……」
「いまの君は、多くの先人が編み出してきた知識を、たった1年で、頭の中にコピーした状態にすぎないからだよ。しかも、君たちはビジネスの現場がどうなっているかも知らない。そんな上っ面な知識が、実務で役に立つはずがないじゃないか」
ヒカリは黙って聞いていた。いろいろ思うところはあったが、経験がないのは事実だから、反論のしようがない。
「じゃあ来週からということで先方に伝えておこう。ボクの友人が社長をしていてね」
「ありがとうございます。それで、どちらのコンサルティング会社でしょうか」
「コンサル会社?君は、ロミーズって聞いたことがあるかな」
「ロミーズ?……あのファミレスのロミーズですか?」
ロミーズは、関東地区でファミリーレストランチェーンを展開している中堅企業だ。ヒカリは何かの間違いではないかと思った。実習先はコンサルティング会社を希望していたし、それがかなわなくても上場企業とばかり思っていた。
「不満なのかね」
「いいえ、ただ――」
「東京経営大学の学生の実習先としては、格が低すぎると思っているんだね」
「そんな……」
ヒカリは否定したが、そのとおりだった。
「それは残念だったね。ボクの力ではここしか紹介できないんだ。だが、いいこともある。ボクのゼミの卒業生の猪木順平君が取締役経営企画室長をしているんだ。以前はコンサル会社に勤めていた。昔から勉強が大好きな男で、よくボクに反発してたよ」
「そうですか――」
と、空返事をしたあと、ヒカリは遠慮気味に聞いた。
「ほかの会社は……ダメでしょうか……」
「もう社長に頼んでしまったからね。それに、君はあくまで実習生であって、この会社に就職するわけではない。まあ、運が悪かったと思って経験してみることだ」
安曇は他人事のように言った。