事務系の作業や定型業務をソフトウェアロボットに代行・自動化させるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)。働き方改革や生産性向上につながると期待されていたが、国内企業においてどこまで導入は進んだのか。また推進における課題と解決策にはどのようなものがあるのか。RPAの技術動向や市場動向に詳しい、ガートナー ジャパンのアナリストで、シニア ディレクターの阿部恵史氏に伺った。

4割を超える企業がRPAを導入済み、コロナ禍によりRPA導入を前倒しした企業も

――働き方改革や生産性向上に資するテクノロジーとしてRPAが脚光を浴びたのは2017年、2018年のことです。それから3~4年が経過しましたが、国内企業における現在の導入状況はいかがですか。

阿部恵史 ガートナー ジャパン
リサーチ&アドバイザリ部門
ITインフラストラクチャ&セキュリティ
ITオペレーション担当
シニア ディレクター, アナリスト
国内・外資系ベンダーにおいて、25年以上にわたって製品/ソリューション・マーケティング、製品マネジメント、デジタル・マーケティング、イベント、チャネル、広報、アナリスト・リレーションなどの各種マーケティングや新規市場開発業務を担当してきたほか、技術系の職種も経験。現在はITオペレーション分野を中心とした市場動向分析と提言を行っている。

 日本のRPA市場は引き続き成長しています。2020年については、新型コロナウイルスの影響が多少ありそうですが、これまでの取材やユーザー企業の話を聞く限りでは、持続的な成長を遂げていると予想しています。

 コロナ前になりますが、ガートナーが2020年1月に実施した調査によると、この時点で4割を超える企業がRPAを本番環境に「導入済み」と回答しており、2020年中には5割を超えるだろうと予測していました。

 緊急事態宣言が発令された直後に、当社主催のバーチャルセミナーを開催したのですが、新型コロナウイルスの影響が見え始めて、先行きも不透明な状況だったにもかかわらず、セミナーに参加した企業から、すでに導入しているRPAの利用を中止するとか、新規の導入や適用範囲の拡大を見送るといった声は聞かれませんでした。

 約7割の企業が、予定通り導入を進めていくと回答したほか、前倒しで自動化を進める決断をした企業も少なからずありました。これは主にコロナ禍によってリモートワークを行わざるをえなくなった企業で、RPAを活用した自動化によって、オフィスに来て人が対応しなければならない業務をできる限り減らすためです。

2020年1月に行った調査では、4割の企業がRPAを導入済みと回答した
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――コロナ禍で、RPAの導入状況や目的に変化があったわけですね。

 コロナ禍の影響でリモートワークが進み、FAXをPDF化してデジタルデータでやりとりするなど、ペーパーレス化を推進した企業があります。最初の元になるデータが紙からデジタルに変わったのであれば、その後の業務自体もRPAで自動化してしまえばいいと考えて、結果としてRPAの適用業務が広がったケースも出てきています。

 RPAによって、できるだけ業務の自動化を図り、それによって会社に行かなくても済む時間を増やしていこうと考える企業も散見されました。すべての業務が自動化できなくても、人手でしかできないような業務の数を減らすことができれば、仮にオフィスに行かなければならないとしても、滞在時間を短くできますし、オフピークの出勤も可能になります。コロナ禍の中で仕事をやりくりするための選択肢を増やす目的で、RPAを導入した企業も多かったと思います。

――2020年2月のガートナーのリリースによると、日本のRPAはハイプ・サイクル※1における「過度な期待」のピーク期を抜け、幻滅期の底に向かっているとのことですが、導入企業数は増加傾向を維持しており、今後は啓発期に入ると見ていいですか。

 その通りです。ガートナーのハイプ・サイクルの幻滅期の底は、採用企業の数が落ち着いてきたということではなくて、むしろ、そこまで増え続けているという前提があります。その幻滅期の時点で、企業がRPAでできることや導入メリット、そしてRPAでできないことを理解し、当初の過大な期待が裏切られ幻滅感が広がります。しかし、それでも活用するメリットがあると考える企業が増えていくことが重要です。RPAの導入によって得られるメリットを理解した企業が適用範囲を広げ、現時点で導入していない企業が新たに導入を進めて、市場では当たり前に使う状態に向かい始めるのが啓発期で、いまはその一歩手前ぐらいです。

ガートナーが発表した2020年8月時点最新のハイプ・サイクル上のRPAのポジションと、それまでの経年変化。現在は多くの企業がRPA導入のメリットを理解した段階で、普及に向かう転換点にあると考えられる
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※1 ハイプ・サイクル:ガートナーが技術の成熟度と採用状況、および実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓にどの程度関連する可能性があるかを図示したもの。詳しくはこちらのページを参照