『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
新しい分野を学ぶとき、やる気があるうちに素早く学びたいのですが、本を読むのが遅く概要すらわからないままやる気がなくなってしまいます。情け無い話ですが、常日頃より効率が悪いため早く読むのは出来そうにないのですが、やる気を保たせるにはどうしたらよいでしょうか。
「やる気を出すぞ!」ではうまくいきません
[読書猿の回答]
やる気は保存がきかないので逐次更新するしかありません。うまくいっているときは、行動→報酬→やる気→行動→報酬→やる気→…という好循環ができていて、行動は維持し、やる気は更新します。
例えば、学ぶ→「わかった/おもしろい!」という認知的報酬→やる気→さらに学ぶ→「わかった/おもしろい!」→…、といったループが続くとよい訳です。
仮に本を読むのに何週間か掛かり、しかも本を読み終えるまで報酬が得られないとすると、やる気をもたらす報酬が何週間も先延ばしにされるので、やる気が消失してしまうのも宜なるかな、ということになります。
検討すべき点は2点あります。一つは本を読み終えないと本当に何も得られないのか?
そして何かの本を通読するというやり方が果たして最適なのか?
まず最後まで読み終えないと報酬が得られないというのは本当ではありません。
分野と書物によりますが、1日の学習で1章を読めるような場合ならば、少なくとも毎日1章分の認知的報酬が得られるはずです。大学教科書のように独習者向けにデザインされた書物では1章ごとにまとめと振り返りの設問等が用意されていることが多いでしょう。理解が及ばず認知的報酬が不足するなら、「1章読み終えるたびに飴をなめる」等人工的に報酬を用意してもいいでしょう。最初に「章と節の数だけマス目を作っておいて達成した分だけ塗りつぶす」というだけでも報酬になります。『独学大全』ではラーニング・ログと呼んでいる技法です。
分野や書物によっては1日に読めるのはせいぜい2~3行という場合もあるかもしれません。よりやる気・モチベーションを更新するのは難しくなりますが、考え方と方法(認知的報酬、人工的報酬)は同様です。
次に書物の通読だけがやり方かという問題です。
参考になるか分かりませんが、私のやり方を紹介します。
新しい未知の分野を学ぶとき、私はその時点で知ることのできたありったけの資料を集めてリストをつくり、分量と難易度によってソートします。つまりリストの先頭になるほど、より易しく分量も少ない資料が来るようにします。
リストの先頭に並ぶのは概ね事典の項目です。事典もいろいろありますが、より一般的な事典・辞典から集めた項目がより前に並び、先頭にはせいぜい数十字しかない辞書からの項目が来ます。
このリストを先頭からつぶしていくことで、より概要的なものからより詳細な記述へと進むことになります。最初は短く易しいものが続くので、いくつもの項目をやり終えることで、認知的報酬をいくつも得ることになります。学習においても、最初は困難も多く挫折しやすいので、最初に易しく、また短くすぐに達成感が得やすいものを持ってくることは、よいスタートを切るのに有益です。
易しすぎるものは説明自体が不正確なこともありますが、一般的な辞典・事典にある専門的項目がどの程度のものかを実地に知る経験にもなります。
易しすぎて飽きてきたら、リストの少し先の方へジャンプしてもいいでしょう。尻尾を巻いて引き返すことになっても、リストの手前にはずっと易しいものたちが出迎えてくれます。
最後に考え方をまとめておくと、やる気を操作して行動を引き出すアプローチはうまくいきません。やる気は行動の原因というより、結果だからです。それはスピードメーターの針を引っ張って自動車を加速させようとするのと同じやり方です。「スピードメーター」と同じだと分かれば、「やる気が出ない」こと自体が、学習がうまくいっていないことを、やり方がどこか間違っていることを、教えていることに気づくことができます。