『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
ロシア語独学で挫折しています
『独学大全』を参考に塗り壁式でロシア語(『独学大全』でも紹介されていたニューエクスプレスです)を学んでいます。
しかし、薄く何度も塗り重ねようと思っても、単語や文法はおろかキリル文字の読み方すらなかなか覚えることが出来ず、塗り重ねるどころか塗った端から塗料が粉末化して剥がれ落ち、単に小手で壁をなぞっているだけのような印象を拭えません。
これまでスペイン語やイタリア語を学んだときは英語からの連想という手を使えたのですが、今回はそれも利用できず徒手空拳まったく手応えがありません。
「学びの動機付けマップ」でモチベーションだけは無駄にあるのですがいかんせん結果が伴わず、このまま実にならない努力を続けていてよいのか、それとも人生という限られたリソース無駄遣いしてサンクコストを積みかさねていくよりも別のことに取り組んだ方がよいのか迷っています。独学の達人からなにかアドバイスをいただければ幸いです。
知っている固有名詞を書くやり方(復語)がおすすめです
[読書猿の回答]
語学の凡人の立場から申しますと、すでにいくつもの外国語を学ばれた経験からか、少し先を急ぎすぎではないかと推察いたします。新しい文字の習得にもっと時間をかけても、あなたなら後で充分巻き返しができると思います。
さてキリル文字の覚え方ですが、塗り壁式では、自分の知っている固有名詞を使うことを推奨しています。固有名詞は発音と意味がある意味「同じ」なので、文字と発音の関係に集中できるからです。
(参考のブログ記事)
https://readingmonkey.blog.fc2.com/blog-entry-666.html
まったく外国語を学んだことのない方ならカタカナ←→キリル文字の対応を使いますが、アルファベットに十分親しんでおられると思うので、ラテン文字←→キリル文字を対応をさせるところから始めましょう。
例えば、人類初の宇宙飛行士ガガーリンは、キリル文字では「Гагарин」と綴り、ラテン文字ならば「Gagarin」と書きます。
最初は一文字一文字に神経を行き渡らせたいので、復文というやり方を使いましょう(ここでは復語ですが)。ただキリル文字を繰り返し書き写すよりも、短い回数でマスターできます。
1. 「Гагарин」を見てアルファベットで書き直す
2. 答えを見て間違っているところを赤字で修正する
3.「Gagarin」見てキリル文字で書き直す
4. 答えを見て間違っているところを赤字で修正する
5. 間違えなくなるまで1~4を繰り返す
ディケンズ『荒涼館』のよろず古物屋クルックのように、最初は大きな文字で書くのがおすすめです。
「ガガーリン」について完璧にできるようになったら、5つのキリル文字とアルファベットの対応を学んだことになります。
「ガガーリン」についてマスターしたら、さらに自分が知っているロシア人の名前(たとえばプーチンやブーニン)や、ロシアの地名(たとえばモスクワやサハリン)、あるいはロシア語由来の外来語(たとえばノルマやコンビナート)などから単語を選んで、同じことを繰り返します。
ここでも急ぎすぎず、ひとつの単語を意識的努力なしに書けるようになってから、新しい単語へ進むとよいでしょう。
なお、これらの固有名詞を探してその綴りを知るにはウィキペディアが便利です。「ロシア語の人名」や「ロシアの地名」や「ロシア語由来の外来語」というカテゴリがあります。
Category:ロシアの人名
https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E8%AA%9E%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%90%8D
Category:ロシアの地名
https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AE%E5%9C%B0%E5%90%8D
Category:ロシア語由来の外来語
https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E8%AA%9E%E7%94%B1%E6%9D%A5%E3%81%AE%E5%A4%96%E6%9D%A5%E8%AA%9E
次の日、そして次の週に復習することをお忘れなく。日を開けてやってみると(最初のうちはとくに)ミスがでてきますが、「学習機会が得られた」と思っておきましょう。
10単語もやれば、完璧でないにせよ、かなりの数のキリル文字に親しんだことになります。
近頃は電子辞書がありますが、キリル文字の順番も覚えておかないと紙の辞書が引きにくいです。
上記の固有名詞/外来語の復語を行い、ある程度親しんだ後でなら、キリル文字を通しで書いてみても、初見の時よりはずっと覚えやすくなっているはずです。