先行き不透明な今、未来について考えると不安になり、思い悩んでしまうかもしれません。そんなときにオススメなのが「過去を振り返ること」。具体的には、昔住んでいた町や聴いていた音楽など、かつて慣れ親しんでいたものにふれて「懐かしさ」を感じることです。さまざまな脳医学の研究によると、過去を積極的に振り返ることで、老若男女問わず脳の健康を維持でき、将来の認知症リスクを下げる可能性があることがわかっています。そこで今回は、これまで16万人の脳画像を見てきた脳医学者・瀧靖之先生の著書『回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣』(青春出版社)から、「過去を振り返ること」で得られる脳への効果について解説します。
医療や介護でも応用されている「懐かしさ」の持つ力
過去を振り返ることは、けっして現状からの逃避ではありません。私たちが過去を振り返って「懐かしさ」を求めるのには、脳医学的な意味があったのです。
「懐かしさ」という感情を英語にすると、「ノスタルジア」という名詞が一番近いように思われます。形容詞にすると「ノスタルジー」になります。20世紀のなかばころまでの心理学の世界において、「ノスタルジア」という用語は、故郷から遠く離れたときに感じる不安や悲嘆などの心理的な症状を表す言葉として、否定的にとらえられてきました。