面白い文章を書くためにご存じだろうか?面白い文章を書くために、特別なテクニックは要らないことを(写真はイメージです) Photo:PIXTA

文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。記者は面白い文章を書ける人たちだと思われており、「どうすれば文章が上手くなるのか」という相談をよく受けます。そこで、面白い文章を書くための文春流文章術をお話します。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)

文春流文章術の極意
編集部の「3つの教訓」とは

 1979年、入社2年目に配属された週刊文春の壁には、こんな大きな張り紙が貼ってありました。

 一、大方針をたてる編集長は、朝令暮改
 二、タイトルを考えるデスクは、羊頭狗肉
 三、原稿を書く書き手は、針小棒大

「と、ならないように注意しましょう」と小さく付記がありました。

 もちろん、今はもう張り紙は取り外されています。まだ若かった私は仰天しました。「やはり、週刊誌はいい加減なんだ」と。

 しかし経験を積むと、別に無茶苦茶なスローガンでもないとわかるようになりました。誰だって、自分の原稿をなるべく多くの人に手にとってほしい。面白く読んでほしい。ネタは当然新鮮なほうがいいとなると、この四文字熟語がぴったりきます。

 とはいえ、最後に「と、ならないように注意しましょう」と書いてあるのが文春流のユーモアです。自嘲ともいえますが、この最後の注意書きこそ、文春流文章術の極意かもしれません。

「文章をうまく書くにはどうしたらいいか」という質問をよく受けます。正直、私の文章は若い時期、文春では上手なほうではなく、むしろ下手くそで、デスクに跡形もないくらい直しをくらっていました。