商品・サービスの「買いやすさ」というのは、基本的なことでありながら、実のところ工夫が行き届いていない場合が多い。観光において「買いやすさ」が競争力につながる理由と、星野リゾートが「買いやすさ」を高めるためにどのような取り組みを行ってきたのか、星野リゾート代表・星野佳路さんに聞いた。(構成/斎藤哲也)

コトラー教授に勧められたポジショニングモデル

 前回の記事『星野リゾート代表に聞く、ホテルなどの観光業で価格を変動させる功罪』では、短期的な稼働率を重視してホテルの価格を安易に変動させることで、顧客の信頼を失うリスクについて持論を述べました。今回は、顧客の信頼を得る上で重視している「イーズ・オブ・アクセス(買いやすさ)」について取り組んできたことをご紹介します。

星野佳路(ほしの・よしはる)さん
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。

 確か2000年代の前半、マーケティングの大家、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のフィリップ・コトラー名誉教授とお話しする機会を得た時、意外なことをお聞きしました。

「先生のMarketing Managementは私にとって今でも大事な教科書です」とお伝えした時、「あんな古い話をまだ実践しているのか?」という言葉が返ってきたのです。

 すかさず「今は何が新しいポジショニングモデルだとお考えですか?」と聞くと、「Five Way Positioning などは面白い」という返答でした。

 必死に探しましたが、当時そういうタイトルのビジネス書は見当たらず、しばらく調べているうちに「Myth of Excellence」という本の中にFive Way Positioning理論があることを見つけました。

 その後、この本は和訳され『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』(フレッド・クロフォード、ライアン・マシューズ著、イースト・プレス)として刊行されました。私が「イーズ・オブ・アクセス」をより強く意識するようになったきっかけは、この理論を読んだことでした。