ホテルなどの宿泊施設の価格が、週末や長期休暇など繁忙期に高くなることに、消費者側はある程度慣れてしまっている。そして、観光サービスを提供する側の多くも、繁忙期に価格を上げるのは当たり前、と考えている節がある。しかし、本当にそうだろうか?星野リゾート代表・星野佳路さんが考える観光業における価格戦略の要諦とは? (構成/斎藤哲也)

星野リゾートが価格設定とともに注視している指標

 今回は、私が長い間に試行錯誤してきた星野リゾートの価格戦略について考察してみたいと思います。

 ホテルにとって価格は高い方がありがたいのは当然です。高単価は高収益につながり、スタッフにも高い報酬を支払えるようになり、同時に市場においてホテルのブランド力を高めます。

利用者の信頼を損ねない価格戦略とは? Photo:Adobe Stock

 しかし価格が高くなると、顧客の期待値は上がり、顧客満足度に低下圧力がかかります。顧客満足度が下がれば集客力は減少し、長期的にはブランド力を下げてしまう。ひいては収益に悪影響を及ぼすことになります。

 星野リゾートでは、1994年から毎日お客さまへのアンケート調査を実施し、顧客満足度を定量的に数値化してスタッフにフィードバックしています。現在ではご宿泊いただいた顧客の約25%から回答をいただいています。それを見ても、価格が高くなるピークシーズンは、相対的に顧客満足度が下がることが確認できます。

 ちなみに、顧客満足度調査で正しい数値を得ることは重要なのですが、それは簡単なことではありません。サンプルを間違えないこと、そして返答率を最低でも20%は維持することが重要です。客室のデスクの上にアンケート用紙が置いてあるケースがありますが、それで得られる返答率は数パーセントであり、全体の意見を反映していないサンプルと言わざるを得ません。返答率20%以上を獲得することは、多くのケースで満足度を高めるよりも大変なことで、私が既存の運営施設を引き継ぐケースでは、まず顧客満足度調査の返答率だけを目標設定し、最初の1年目はそれを最も重要なKPI(重要経営指標)としているのです。

 返答率の話になるとついテンションが上がってしまいますが、話を価格戦略に戻しましょう。

星野佳路(ほしの・よしはる)さん
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。

 お客さまは、払っている価格に見合ったサービスを享受できたかどうかで、自身の満足度を評価されます。例えば、同じレストランの料理を食べても、価格次第で「おいしかったけど、この価格だとコストパフォーマンスはいまひとつ」とネガティブな評価になることもあれば、「おいしかったし、この価格なら大満足」とポジティブな評価になることもあります。ですから、同じサービスに対しても、価格が違えば満足度は変わってくるのです。

 観光地の宿泊施設は、繁忙期と閑散期とでは料金が変動します。週末や祝日と平日でも大きな価格差があります。このように一定の稼働率を確保するため、市場の需給関係に応じて価格を変動させることを「ダイナミックプライシング」と言い、それを経営上最適になるように管理することを「イールドマネジメント」と呼んでいます。ホテルは、在庫を事前に蓄えることができない上、繁忙日と閑散日の販売個数が同じであるために、売上最大化の手法としてダイナミックプライシングが必要になるのです。