現場で役立つ会計術#3

星野リゾートはコロナ禍で受ける打撃を早期に予測し、過剰な利益を求めず赤字にならないための新しいKPIを打ち立てた。さらに、全社員へリアルな倒産確率まで共有。特集『現場で役立つ会計術』(全17回)の#3では、観光業界を襲う未曽有の危機を乗り切るため、星野佳路代表が編み出した“秘策”と、それを実現する星野リゾート社員に宿る「経営思考」に迫る。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

星野代表がコロナ禍で打ち出した「新しいKPI」
倒産確率も共有し、全社員が現状を把握

 観光業界は、昨年よりコロナ禍で危機に陥っている。多くの企業や店舗が経営難となる中、ある“秘策”で乗り切ってきたのが星野リゾートだ。

 星野リゾートは1914年、長野県軽井沢町に「星野温泉旅館」として誕生し、今年で開業107周年を迎える。“リゾート運営”に特化した企業として、ラグジュアリーホテル「星のや」、リゾートホテル「リゾナーレ」、温泉旅館「界」、都市型観光ホテル「OMO」などを国内外に展開している。

 新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた昨年3月。星野リゾート代表の星野佳路氏は、このときすでにコロナ禍が1年以上続くことを予想していた。そこで星野氏は、4月の時点で全社員に「18カ月計画」と称したビジョンを打ち出し、新しいKPI(重要業績評価指標)や、現在の会社が置かれている危機的状況を伝える「倒産確率」などを共有した。「感染拡大に波があることは最初から分かっていたので、サーフィンのように波に乗っていこうと伝えました」(星野氏)。

 社員たちに伝えた新しいKPIは次の三つである。「(1)現金はつかみ、離さない」「(2)人材は維持し復活に備える」「(3)顧客満足(CS)、ブランド戦略の優先順位を下げる」こと。「平常時だと長期的な目線で利益を求めるが、有事のタイミングでは短期的な目線で赤字にならないことが重要」だと星野氏は語る。