DNAはめちゃくちゃ長い

 われわれの染色体には、中心部に単一で切れ目のないDNA分子がある。DNAはめちゃめちゃ長くなることがあり、次から次へと鎖状に並んだ、何百何千もの遺伝子を含んでいる。

 たとえば、人間の二番染色体には一三〇〇個以上の異なる遺伝子の列があり、このDNAを引き伸ばすと、長さは八センチメートルを超える。

 われわれの小さな細胞一つに含まれる四六本の染色体を合わせると、DNAが二メートル以上になるという、尋常ではない計算値が導き出される。DNAは、奇跡のような手際のパッキング(梱包)によって、直径が数千分の一ミリメートルほどの細胞に見事に収まっている。

 さらに言えば、あなたの身体の数兆個の細胞の内側でとぐろを巻いているすべてのDNAを、どうにかしてつなぎ合わせ、それを引き伸ばせたなら、およそ二〇〇億キロメートルの長さになる。これは、地球から太陽までを六五回も往復できる長さだ!

 アベリーはとても控えめな人物で、自分の発見をあまり大げさに吹聴しなかったせいか、彼の結論に批判的な生物学者もいた。

 しかし、アベリーは正しかった。遺伝子はDNAでできている。この真実がようやく理解されて浸透し、遺伝学と生物学全体の新たな時代の到来を予感させた。遺伝子はついに、物理と化学の法則に従う安定した原子の集まり、すなわち、化学物質として理解されたのだ。

(本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)

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