イギリスからの翻訳書Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめたワークハック大全』は、コロナ禍で働き方が見直される中で、有益なアドバイスが満載な1冊だ。著者のブルース・デイズリー氏は、Google、YouTube、Twitterなどで要職を歴任し、「メディアの中で最も才能のある人物の1人」とも称されている。本書は、ダニエル・ピンク、ジャック・ドーシーなど著名人からの絶賛もあって注目を集め、現在18ヵ国での刊行がすでに決定している世界的なベストセラー。イギリスでは、「マネジメント・ブック・オブ・ザ・イヤー 2020」の最終候補作にノミネートされるなど、内容面での評価も非常に高い。本連載では、そんな大注目の1冊のエッセンスをお伝えしていく。(本記事は2020年9月30日の記事を再構成したものです)

世界的ベストセラー書が断言!「在宅勤務の有効性」を示すエビデンスはあまりないPhoto: Adobe Stock

「在宅勤務の有効性」を示すエビデンスはあまりない

「コーディング・ウオーゲーム」という実験が、孤独の力の価値を示している。

 これは約100社のソフトウェア開発者600人が2人1組になり、合計300チームが特定のタスクを実行する中規模のプログラムを開発し、その出来を競うというものだ(参加者は自分の会社のいつもの仕事場でタスクに取り組む)。

 各チームには大きな裁量が与えられ、好きなプログラミング言語を選べた。参加者の経験や給与などの変数にも注意が払われ、プログラマーは普段仕事をするときとまったく同じ条件でタスクに取り組まなければならないというルールもあった。

 ゲームが終了し、成績が最高だったチームは、最低だったチームの10倍ものはるかに良いパフォーマンスを見せ、平均値を2.5倍も上回っていた。

 その理由は、参加者が静かな環境でタスクに取り組めたことだとわかった。トップパフォーマーの62パーセントが、自らの作業環境は「十分にプライベートが守られている」と回答した。

 対照的に、成績が振るわなかった参加者の75パーセントは、絶えずタスクを中断させられるような環境で働いていた。

 オープンオフィスがパフォーマンスに与える悪影響については本書ですでに説明したが、こうした環境はクリエイティブな思考にも向いていないようだ。

 静かな環境でアイデアをじっくり考えることができたプログラマーたちが、最高のパフォーマンスを発揮していたのだ。

 もし、静かな場所で黙々と仕事をすることが最適な働き方なのだとしたら、その答えは在宅勤務なのだろうか?

 家庭と仕事の両立に苦心している人にとって、在宅勤務が素晴らしいワークスタイルになることは間違いない。ただし残念ながら、研究結果は在宅勤務の有効性をあまり証明できていない。

 たしかに、在宅なら集中してまとまった仕事がしやすくなる。だが、生産性が上がる以上に、シンクロナイゼーションが失われることで生じる損失のほうが大きくなる。

 ミシガン大学のエレナ・ロッコの研究によると、単独で別の場所で仕事をしている人は、会社で働く同僚との間の信頼関係が次第に弱まり、結果として共同作業の質に悪影響が生じていることがわかった。

 在宅勤務者は、定期的なフィードバックがなければ、開始直後は向上する生産性もすぐに落ちてしまうと報告している。

 ワークテック分野のスタートアップ企業であるヒューマナイズのCEOベン・ウェイバーはこう言う。「自宅で仕事をすることで影響を受けるのは本人だけではない。会社で一緒に仕事をしている人のパフォーマンスも劇的に低下する」。

 ウェイバーは、在宅勤務ではアイデアの流れが停滞することで、チーム全体の知性が低下すると考えている。台所のテーブルで働くことは、チーム全体の生産性を考えれば最適な答えではない。

 つまり、必要なのは個人で働くことと集団で働くことのバランスなのだ。

 メンバー同士のシンクロナイゼーションとコラボレーションを推進している職場では、次の段階はチームでアイデアを考えることを目指したくなる。

「メンバーは仲が良く、チーム内には良い雰囲気がある。来年にチームで挑戦すべき新しいアイデアを考えてみよう」というわけだ。

 でも、この罠にはまってはいけない。シンクロナイゼーションとは、メンバーが協調して働くことだ。でも、難しい問題を解決するためには、まずは個人が1人で深く思考する必要がある。

 その力は、チームがいくらシンクロナイズされていても変わらない。創造性は、個人が考え抜いたアイデアを、集団で議論することで開花する。真にシンクロナイズしているチームは、この両方を実行できる。