イギリスからの翻訳書『Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめたワークハック大全』が本年9月に発売された。コロナ禍で働き方が見直される中で、有益なアドバイスが満載な1冊だ。著者のブルース・デイズリー氏は、Google、YouTube、Twitterなどで要職を歴任し、「メディアの中で最も才能のある人物の1人」とも称されている。本書は、ダニエル・ピンク、ジャック・ドーシーなど著名人からの絶賛もあって注目を集め、現在18ヵ国での刊行がすでに決定している世界的なベストセラーだ。イギリスでは、「マネジメント・ブック・オブ・ザ・イヤー 2020」の最終候補作にノミネートされるなど、内容面での評価も非常に高い。本連載では、そんな大注目の1冊のエッセンスをお伝えしていく。
「アイデアの持ち寄り」がベストな方法
「これまで出会った発明家やエンジニアのほとんどは、私と同じだった。つまり、自分の頭の中で生きていた。彼らはまるで芸術家のようだった。実際、トップクラスの人たちは芸術家そのものだ。そして、芸術家は1人で仕事をするときに最も能力を発揮する。あまり喜ばれないかもしれないアドバイスをしよう。それは、1人で仕事をすることだ。委員会形式でもなく、チーム形式でもなく」
アップルの共同創設者、スティーブ・ウォズニアックが最高のアイデアがどんなふうに生み出されるかについてこう語っている。
この本でこれまでさんざんチームワークの必要性について述べてきたことを考えると、これはちょっとしたショックかもしれない。これは明らかにスティーブ・ジョブズの考えと矛盾している。
伝記作家のウォルター・アイザックソンによれば、ジョブズはピクサー社のオフィスのレイアウトに並々ならぬ意欲を注いだ。社員が1人きりで仕事をすべきではないと確信していたからだ。
「ジョブズは本社ビルのアトリウムの構造や、トイレをどこに配置するかについてさえ異常なほどに執着していた。社員同士の偶然の出会いが起こりやすいようなレイアウトにしたかったのだ」とアイザックソンは書いている。
では、結局どちらが大切なのだろうか? 最高の創造性を発揮するために1人になるべきなのか、それともそれをグループに持ち寄って革新的なチームをつくるべきなのか?
答えは、どの段階にいるか、何をしようとしているかによる。プロジェクトや新しいイニシアティブの初期段階では、アイデアを考え出したり、頭の中でそれを自由に膨らませたりするために、1人で作業をさせるべきだ。
しかし、これらのアイデアを改良したり、問題点やボトルネックを解決したりするには、チームで協力して練り上げるほうが効果的だ。つまり、1人で作業するか、チームで作業するかはどちらかが常に正しいわけではない。
大切なのは、「いつ1人で作業するか、いつチームで作業するか」についての適切なタイミングを知ることなのだ。
研究結果も、プロジェクトの早い段階からチーム全体が関わるのは非生産的であることを示唆している。
ここ数年で、集合的に想像力を働かせるための究極の形であると見なされてきたブレインストーミングが、実際には(少なくともそれまで考えられてきたほどは)効果的ではないことが明らかになった。
ブレインストーミングに参加していると、自分たちは素晴らしいアイデアを次々に出しているような気分になる。だが、あらゆる会議がそうであるように、実際にはそこでは労力の多くがグループ内でのポジション争いや自己アピールに費やされている。
また、カリフォルニア大学バークレー校の心理学者シャルラン・ネメスは、ブレインストーミングの「誰がどんなアイデアを提出しても批判しない」というルールは、この手法の有効性を落としている大きな理由だと指摘している。
「”誰かを傷つけないように全員がポジティブな態度をとることが大切だ”というブレインストーミングの考え方は根本的に間違っている。アイデアに対して批判的な意見を述べるのは楽しくないかもしれないが、そちらのほうがずっと生産的になる。真の創造性には、ある程度のトレードオフが必要なのだ」とネメスは言う。
相手の提案をつまらないと思う理由を伝えれば、当然摩擦が生じる。だが、それによってグループ内で創造的なひらめきが生まれる可能性がはるかに高くなる。
ブレインストーミングは、参加者が最初に自分1人でアイデアを考える時間を与えられるときに最もうまくいくこともわかっている。
その後でグループで集まり、それぞれのアイデアを出しあうほうが、何も考えずに集合してからアイデアを出すよりも創造的な提案が倍増するケースが多い。