競走馬のサイレンススズカは、スタートから先頭に立って後続を引き離し、そのまま逃げ切るレーススタイルで1998年に圧倒的な強さを誇った。誰もが「どこまで強くなるのか」と期待を抱いたが、その期待がピークに達した同年11月、GI天皇賞・秋というレースで、サイレンススズカは先頭を走る最中に脚を骨折。そのまま競走を中止してしまった。骨折は重度であり、同馬を救うすべは見つからず、最終的に安楽死の処置が取られてしまった。
 
 アニメ版のウマ娘は、このストーリーを題材にしたエピソードを描き、余白部分を埋めた。サイレンススズカが天皇賞・秋で骨折するまでは事実通りだったが、その後、彼女は長い休養・リハビリ期間を経て、1年を超えるブランクを跳ね返し復活勝利を飾った。
 
 サイレンススズカの悲劇は、多くの競馬ファンが避けたい記憶だ。その悲劇を名馬の擬人化で表現すれば、一定のアレルギー反応が起きるリスクは予想される。しかし、サイレンススズカのエピソードは好意的な反応が多く、その後の人気上昇につながった。このエピソードの成功は、ウマ娘という競馬の擬人化コンテンツが手応えを得た瞬間でもあるだろう。

ゲームの延期期間が
大ヒットの土台を整えた

 ウマ娘の発表当時は、否定的な反応を示すファンも大きく、キワモノ扱いされたこともあった。ファンの反応を見ながら、競馬の擬人化のあり方やバランスをつかんできた印象がある。
 
 そう考えると、ウマ娘コンテンツの本命であるスマホゲームを延期し続けたのは正しい判断だったかもしれない。発表から2年以上たち、満を持して投入したゲームが大ヒットしたのは、十分な試行錯誤の期間を設けたことも大きかっただろう。
 
 ちなみに、ウマ娘は過去の名馬を題材にしているが、ディープインパクトやオルフェーヴルなど、近年、圧倒的な強さで競馬界を席巻し、知名度も高い馬が入っていない。
 
 これらの馬がキャラ化されていない理由を臆測で語るのは避けたいが、今後、こういった馬名が“ウマ娘”として登場することはあるのだろうか。コンテンツの人気が出る中で風向きが変わる可能性はある。
 
 ウマ娘を起点に実際の競馬を見る人も出ており、競馬界にとっても新たなファン獲得の機会となりつつある。今後ますます「ウマ娘」は快走する気がしてならない。