瀕死の洋上風力発電ビジネスの命運を握る「電力販売価格」を独自試算!“劇薬”も含む政府の緊急制度改革の中身も解説Photo:John Moore/gettyimages

日本の脱炭素「切り札」と言われてきた洋上風力発電が、インフレなどの直撃を受け、瀕死の状態にある。さらに、三菱商事の撤退で露呈した日本の安値偏重といえる公募制度の致命的な欠陥も横たわる。このままでは、洋上風力発電プロジェクト全体が「ドミノ倒し」になりかねない。経済産業省と国土交通省は緊急で制度見直しに乗り出しているが、その成否は、価格設定という最もセンシティブな「魂」の議論にかかっている。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、政府の緊急制度改革案のポイントを解説するほか、日本の洋上風力が乗り越えるべき「入札価格」について徹底分析する。(エネルギー政策研究所長 山家公雄)

“安ければ良い”が招いた自壊
三菱撤退が突きつけた日本の問題点

 日本のエネルギー安全保障の未来を担うはずだった洋上風力発電計画。その第一弾の旗艦プロジェクトで、三菱商事グループが今年8月に撤退を表明し、産業界に衝撃が走った。この撤退劇の背景には、世界的な資材価格の高騰(インフレ)と、日本の公募制度の根本的な欠陥があった。

 洋上風力発電は、初期投資(資本費:CAPEX)が発電コストの約7割を占める、極めて高額な事業である。三菱商事が2021年に応札した政府の公募制度のラウンド1(R1)では、事業者を決定する際に「電力価格の安さ」が優先され、結果、採算を度外視した「低すぎる価格」での入札(ゼロプレミアム)が横行した。

 しかし、制度設計が固まる最中にインフレが勃発。建設に必要な鉄鋼や特殊部品の価格が高騰し、当初設定した安すぎる販売価格では、投資コストの回収が見込めなくなったのだ。三菱商事の撤退は、「安ければ良い」という制度設計が、結局は「事業完遂の確実性」を失わせるという、国策としてのエネルギー計画における致命的な失敗を突きつけたと言える。

 政府はこの教訓を「ゼロプレミアムの反省」として、制度の抜本的な見直しに追い込まれた。この危機的状況を受け、政府は11月19日の資源エネルギー庁と国土交通省の洋上風力合同会議で、今後の「ドミノ倒し」を食い止めるための緊急制度改革案を打ち出した。それは、既存案件の「救済」と新規募集の「制度改革」の二本柱で構成される。

 次ページで、劇薬的ともいえる措置を含む緊急制度改革案の中身について詳しく解説する。また、緊急対策では、販売価格に関する措置も盛り込まれる。グローバルな価格水準も踏まえた、制度が持続可能な価格とはいったいいくらなのか。