
かつて「保守本流の女帝」といわれたフィクサーがいた。吉田政権下の与党・自由党の重鎮7人による幹部会に秘書として唯一、出席を許され、池田勇人、佐藤栄作といった歴代首相と対等に渡り合った。その名は辻トシ子。自民党の名門派閥、旧宏池会の陰の権力者となり、政界を動かした。彼女と交流があった数少ない現役の政治家の一人が、岸田文雄元首相だ。『昭和の女帝 小説・フィクサーたちの群像』のモデルである女性の謎に迫る、特集『小説「昭和の女帝」のリアル版 辻トシ子の真実』の#4では、辻トシ子が果たした役割や、その権力の源泉について岸田元首相に語ってもらった。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
政財界の潤滑油として社会を動かした女帝
政局の混迷打開にはフィクサーの存在も必要
――辻トシ子氏を、一言で表現すればどんな人でしたか。
官僚、政治家、こうした人脈の中で、潤滑油であったり、あるいは橋渡し役であったり、いろんな影響力を発揮した人だと思います。振り返ってみると、(辻氏に)一番親しくしていただいたのが、保守本流といわれる宏池会でした。こういった人脈の中で、辻さんは人をつなぎ、人を動かし、影響力を発揮しておられました。
――宏池会においては、どういう役割でしたか。
宏池会が政局の中で生き残っていくに当たって、他の派閥といろんなやりとりがありました。政権を取りにいくこともあったわけですが、その際に辻さんの存在、人脈ですとか活躍が大きな意味を持っていたのではないでしょうか。
――「政権を取りにいく」とおっしゃったのは、どの政権のときですか。
池田政権もそうですし、大平政権もそうでしたし、宮澤政権も、みんな宏池会ですから、宏池会にご縁の深い辻さんがいろいろと力を貸してくれたのではないでしょうか。
政権を取りにいくばかりではなく、派閥政治の中で、政権を取らないときも宏池会は存在感を示さなければいけない。そのために、派閥間のやりとり、政治家同士の駆け引きが絶えずありました。その中で、辻さんの人脈とか経験が影響を与えたのではないかと思います。
――辻氏の全盛期は、池田勇人内閣や佐藤栄作内閣の時代だったという人もいれば、宮澤喜一内閣の時代だという人もいます。
そういう時代(宮澤政権当時)まで、いろいろあったのかもしれません。
――政治資金を集めるパーティー券の販売などでも、辻氏が活躍したと聞いています。
そういったこともあったと思います。
――辻氏は、池田首相や佐藤首相と同格のような感じで付き合っていたといわれています。
そうですね。辻さんは衆議院議長、副総理を務めた益谷秀次先生の秘書だったわけですが、益谷さんと全く同格に扱われて、いろんな会合に2人そろって出ていたと聞いています。
――一方で、辻氏の人脈は、宏池会に閉じているわけでもなく、小沢一郎氏と交流するなど、経世会とも付き合いがありました。
昭和の女帝
小説・フィクサーたちの群像
千本木啓文著
<内容紹介>
自民党の“裏面史”を初めて明かす!歴代政権の裏で絶大な影響力を誇った女性フィクサー。ホステスから政治家秘書に転じ、米CIAと通じて財務省や経産省を操った。日本自由党(自民党の前身)の結党資金を提供した「政界の黒幕」の娘を名乗ったが、その出自には秘密があった。政敵・庶民宰相との壮絶な権力闘争の行方は?













