総予測2026Photo:PIXTA

欧州経済はウクライナ戦争以降、ドイツが一時マイナス成長に陥ったこともあって低迷が続いている。ドイツの財政政策転換は、欧州経済の回復加速につながるのか。トランプ関税の影響はどう見ればいいのか。特集『総予測2026』の本稿では、26年の欧州経済の行方と、リスク要因について展望する。(第一生命経済研究所首席エコノミスト 田中 理)

かつての債務不安国がけん引する欧州経済
ドイツの財政政策転換は景気浮揚につながるか

 2026年の欧州経済の注目点は、ドイツの歴史的な財政政策の転換が、どの程度の景気浮揚につながるかだろう。

 ドイツの低迷で、23~24年のユーロ圏経済は1%未満の低成長が続いた。ドイツ経済は、脱ロシア・脱化石燃料を急進したことでエネルギー価格が高止まりし、産業競争力を失った。そこに長年の緊縮財政によるインフラ老朽化や熟練労働者の高齢化、中国などとの競争激化も加わり、2年連続マイナス成長と構造不況に陥った。

 ドイツと同様、製造業が盛んで輸出依存度が高いイタリアも景気低迷に苦しんでいる。また、財政不安を抱え、政局混乱が続くフランスも不安定な経済環境が続く。

 こうした中核国に代わり、最近のユーロ圏経済のけん引役は、10年代前半の欧州債務危機時に欧州連合(EU)の財政支援下に入ったスペインやポルトガル、ギリシャ、アイルランドだ(下図参照)。

 かつての債務不安国は、債務危機を克服する過程で構造改革に取り組んだことで競争力を回復。移民の流入増による労働力不足の緩和と消費需要の喚起、パンデミック終息後の観光需要の回復、多国籍企業による経済活動などが経済環境の好転につながっている。

 南欧諸国では、パンデミックからの回復に必要な財政資金をEU加盟国に提供する欧州復興基金が手厚く配分され、気候変動対策やデジタル化対応などの投資拡大を後押ししている。

ドイツの歴史的な財政政策の転換は、欧州経済の回復加速につながるのか。トランプ関税の影響はないのか。次ページでは、26年の欧州経済の行方やリスク要因について解説する。