「タダでもいいから引き取ってくれないか?」

 都内で居酒屋を営むある店主は、大手飲食店チェーンの出店担当者の元を毎日のように訪れては、頭を下げ続けている。

 この店主、20年前に脱サラして居酒屋を始めたが、ここ数年で市場の過当競争がいよいよ激化。客足は1990年代後半からの10年間で3分の2まで減ってしまった。

 それに加えてダメ押しとなっているのが、昨年末から本格化している「原材料価格の高騰」である。食材の仕入れ価格上昇により、やむなくメニューを値上げした結果、さらに客足は落ち込んだ。「毎月の収入は、よくてコストをやっと賄えるくらい、多くの場合は赤字」(店主)という苦境が続いている。

 「もはや経営を続ければ続けるほどリスクが高まる」とわかってはいるが、自力で店を畳むにはそれなりのコストがかかる。そこで、大手飲食店チェーンに出向いては、「店の引き取り交渉」を繰り返しているのだ。

 しかし、大手は大手で、自社の不採算店舗の整理に苦慮している状況。

 「たとえ割安で買えても採算を見込めない店舗が多く、維持費もバカにならない。大手居酒屋チェーンからも毎週のように店舗売却話が舞い込んでいるほど。ましてや、中小の居酒屋の申し出にはなかなか応じられない」(大手飲食店チェーン)。

 運よく買い取ってもらえることになっても、坪単価は半値程度に買い叩かれるのが一般的。それどころか、「タダ」でもなかなか引きとってもらえないのが現状だ。

 これでは、冒頭の店主が悲鳴を上げるのも無理はなかろう。

高い初期費用に原材料高騰
出店するはじから退店続々

 現在、全国の居酒屋はキュウキュウとしている。昨年末から原材料価格高騰の影響がジワジワ波及し始めたことなどにより、外食産業全体の売上高は、この4月に前年同月比1.3%減と3年ぶりに前年を下回った。

 なかでも淘汰が激しい居酒屋の市場規模は、1990年代前半から3割近くも減少して約1兆1000億円まで落ち込んでいる。資金力にモノを言わせてシェアを伸ばしているのは、一部の大手資本のみ。業界全体で見れば、今や退店(廃業)数が出店数を1.2~1.3倍も上回っているのだ。

 そもそも居酒屋は、出店時にかなり資金がかかる。たとえば、客足が多い山手線内に40~50坪程度のおしゃれな居酒屋を出店しようと思えば、テナントの保証金、厨房設置費、内装費、備品代、食器代などで、3000万~4000万円の初期投資費が必要となる。過当競争の市場においては、それを回収するだけでも大変だ。