CIOが人事のトップを兼任すれば、
最大の障害をクリアできる
入山 僕の感覚では、最終決定権をもっている役員の数は、大きい会社ほど少ないほうがいいんです。4、5人もいれば十分だと思っています。そうすると、執行役員で本当に最終権限をもっている方が、複数のファンクションを兼任する必要が出てきます。それによって、経路依存症の問題が解消できるんです。
たとえば、最近CIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)など、デジタル担当役員を置く会社が増えていますが、その人が人事のトップを兼任するのは有効だと思っています。DXを進めるときに大きな障害となるのは、たいてい人事だからです。
つまり、デジタル人材を採りたいと思っても、ご存じのように、いま本当に優秀なデジタル人材は、世界中で争奪戦になっていて、簡単には採れません。しかも、日本語がわかってくれて、業務がちゃんと理解できて、デジタルもめちゃめちゃできる、さらに『ダブルハーベスト』に書いてあるような戦略を完璧に理解して実行できるようなDX経営人材は、そうはいないわけです。だから、ぜひこの本を読んでください、他の人に読ませてくださいという話になるわけですけど(笑)。
いずれにしろ、そういう人材はきわめて希少です。しかも、そういう人は会社に短パンTシャツ姿で来たりする。「ちわーっす」みたいな軽いノリでやってきて、でも給料は社長の倍、みたいなことが現実に起きるわけです。
たとえば、コープさっぽろは、大見英明さんというすばらしい経営者に率いられて、DXをガンガン進めている先進的な組織なんですが、そこでCIOをやっている長谷川秀樹くんはもともと僕の知り合いです。東急ハンズやメルカリのCIOを歴任してきた彼は、まさにTシャツ姿のラフな格好で仕事をしています。ところが、彼くらいのクラスになると、1社だけじゃなく、何社か見ることができるので、業務委託契約なんです。
堀田 そうなんですか。
入山 僕はこれからデジタルのトップはみんな業務委託契約になると思っています。そうなると、人事体系を変えないとどうしようもないんです。そのとき、DXの担当トップがこういうことをやりたいと言っても、たいてい人事が抵抗します。別々の人がやっていると、役員会で両者がにらみ合いになって、何も決まらないままストップしてしまうわけです。
だけど、同じ人がDXのトップと人事のトップを兼任していたら、その人の中で整合性がつきます。デジタルを入れたいなら、人事体系もこう変える必要があるということを決断できるわけです。
大企業でDXを進めようとすると、どうしても中でいろんなリフレクション(反響)が起きます。それを減らす最大のポイントは、最終権限をもっている人の数が少なくて、結果的にその人の中で調整がついてしまうという状況をつくることです。
堀田 めちゃくちゃわかりますね。経路依存性の話と、兼任の話を結びつけたことはなかったですが、1人で処理しちゃえばいいわけですから。DXを進めるといっても、その人が他部門に対する権限をもっていなかったら、結局何も進まないというのが大きな弊害になっています。
株式会社シナモン 執行役員/フューチャリスト
1982年生まれ。学生時代より一貫して、ニューラルネットワークなどの人工知能研究に従事し、25歳で慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了(工学博士)。2005・2006年、「IPA未踏ソフトウェア創造事業」に採択。2005年よりシリウステクノロジーズに参画し、位置連動型広告配信システムAdLocalの開発を担当。在学中にネイキッドテクノロジーを創業したのち、同社をmixiに売却。さらに、AI-OCR・音声認識・自然言語処理(NLP)など、人工知能のビジネスソリューションを提供する最注目のAIスタートアップ「シナモンAI」を共同創業。現在は同社のフューチャリストとして活躍し、東南アジアの優秀なエンジニアたちをリードする立場にある。また、「イノベーターの味方であり続けること」を信条に、経営者・リーダー層向けのアドバイザリーやコーチングセッションも実施中。認知科学の知見を参照しながら、人・組織のエフィカシーを高める方法論を探究している。マレーシア在住。『ダブルハーベスト』が初の著書となる。