かつて「人間の仕事を奪う」などと語られたAI(人工知能)は、ビジネスの世界でまったく新たなフェーズを迎えています。いま、DX時代の最前線をひた走る企業たちは、「いかにしてAIをビジネス現場に活用し、それを自社の“持続的な競争優位性”につなげるか」に知恵を傾けるようになりました。
実際、ライバルを寄せつけないほどの競争優位を築いた企業には、「ハーベストループ」と呼ばれる“勝ち続ける仕組み”が存在しています。有名なのはジェフ・ベゾスがAmazon創業前にペーパーナプキンに描いたという「1枚のループ図」です。
そんな「AI×戦略デザインのための思考法」が凝縮された一冊が発売されました。人工知能研究で博士号を取得し、世界のトップAI企業100にも選出された会社を立ち上げた堀田創さんと、「企業戦略×AI」のプロフェッショナルともいうべき尾原和啓さんによる『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』です。
「AIのビジネス実装」の最前線を熟知する2人が明かす、何もしなくても企業が勝ち続ける仕組み「ダブルハーベストループ」とは、どんなものなのでしょうか?「次なる時代の勝ちパターンが見えてくる!」と話題の『ダブルハーベスト』より、本文の一部をご紹介いたします。
★冨山和彦氏/経営共創基盤(IGPI)グループ代表
「『狩猟型』から『収穫型』へ。日本企業のDXに欠かせない発想転換の書」
★安宅和人氏/慶應義塾大学SFC教授・ヤフーCSO
「AI×データの第2フェーズ──そこを駆け抜ける道筋がここにある」
★新浪剛史氏/サントリーホールディングス代表取締役社長
「AIは『戦略デザイン』の時代へ。『真のDX』への必読書」
【各業界のトップランナーたちが大絶賛した、DX時代の戦略フレームワーク!】
「DX=デジタルシフト」という致命的な誤解
前回の記事では、AIを組み込んだ戦略を正しくデザインし、その実りを二重、三重に収穫し続けられる状態(ダブルハーベストループ)こそが、次なる時代の勝ちパターンであることをお伝えした。つまり、単に他社に勝つだけではなく、勝ち続ける仕組みを実現することこそが、AI活用における最大のポイントなのだ。
※参考記事
ただ稼ぐのではなく、何重にも稼ぎ続ける。次なる時代の勝ちパターン「ダブルハーベスト」とは?
他方で、ブームに乗ってすでにAIを導入したという企業の方は、喧伝されていたほどの成果が出ずに、そろそろ失望しているころかもしれない。
だが、見限るのは待ってほしい。自社が導入したそのAIは、既存の業務やタスクをデジタル化・自動化しただけのものではないだろうか。つまり、ただの「デジタルシフト(デジタルへの置き換え)」であって、会社や事業の仕組みそのものを変身させる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」になっていないのではないだろうか。
AIというと真っ先に思い浮かぶ、おすすめ商品を表示するレコメンデーションや自動化によるコスト削減は、じつは、AI導入のほんの入り口にすぎない。
AIは目の前の勝負に「勝つための手段」ではないのだ。
繰り返すが、むしろAIは「勝ち続けるための仕組みづくり」においてより大きな威力を発揮する。
そのためには、AIがより賢くなるような「ループ構造」をつくって回すのが第1のステップとなる。だが、ほとんどの企業はこの段階でつまずいている。ループ構造がつくれていないから、せっかくAIを導入したのに、たいした効果が得られないのだ。
そのため、蓄積されたデータによって、AIの精度がどんどん高まっていくループ構造をつくるだけでも、競合に対するアドバンテージとなるだろう。だからこそ、もはやAIの本質は、技術論ではなく戦略論のほうにあるのだ。
しかし、この1つのループを回すだけでは、なかなか優位性を頑健に保つことができない。
たとえば、コストを削減することで、サービスの低価格化を実現できたとしても、そう遠くない未来にライバル企業も、同様の戦略をとってくるだろう。なぜなら、いまやAIはコモディティ化しており、どんな企業でも手軽に使えるかたちで提供されているので、競合も同じようにそれを使えてしまうからだ。
そこで必要なのは、競争力の源泉を1つだけつくって満足するのではなく、二重、三重のループをつくって、複数の競争優位を築くことである。これこそが「ダブルハーベスト」の狙いであり、デジタルを駆使して会社を丸ごと進化させるDXの1つの理想形といってもいい。
そこまでやってはじめて「AIを使いこなした」といえるのだ。