多くの企業にAIソリューションを提供する「シナモンAI」の共同創業者として、日本のDXを推進する堀田創さんと、数々のベストセラーで日本のIT業界を牽引する尾原和啓さんがタッグを組んだ『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』が、発売直後にAmazonビジネス書第1位を獲得し、さまざまな業界のトップランナーたちからも大絶賛を集めている。
今回のトークは、『ダブルハーベスト』に「まさにすべての経営者に読んでほしい、AI×ビジネスを体系化しきった実践本だ!」と熱いコメントを寄せる早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授をゲストにお招きする。
日本でAIの利用が進まないのはなぜか?「ハーベストループ」を回す前提となるパーパスをどのように設定すればいいのか? DXを推進するときの障害と、それを乗り越える具体的な方策について、著者の堀田さんとシナモンAI代表の平野未来さんが聞いた(第2回/全3回 構成:田中幸宏)。
パーパスを具体的なKPIに落とし込む
堀田創(以下、堀田) 話をDXに戻します。パーパスがなければAIを入れてもうまくいかない、AIは手段にすぎないというのはそのとおりなんですが、一方で、AIでできることを過小評価して、極端に矮小化するケースも多いようです。たとえば、AIといっても画像分類ができるだけでしょ、音声認識の精度もたいしたことないでしょ、という人がけっこういます。
平野未来(以下、平野) パーパスが現場まで浸透している企業に対しては、私たちも提案しやすいんです。でも、そうではない会社さんと話をしていると、単純にコストを削減するだけという話になりがちです。その理解を向上させるのはかなり大変だと感じています。
入山章栄(以下、入山) そういう人にこそ『ダブルハーベスト』を読んでほしいですね。僕がこの本を読んで思い浮かべたのは、ミスミです。ミスミのmeviyは、3D CADデータから直接部品調達ができるサービスで、今後は世界中の工場で利用されると思っています。
従来は3D CADで設計図をつくったら、そのままでは部品を発注できないので、いったん2次元の図面に落として、それをもとにミスミのカタログを見て発注していたので、実はそれでもリードタイムがけっこう長いんです。でもmeviyを使えば、3D CADファイルをラッグ&ドロップでアップロードするだけで、どんな部品が必要で、それぞれいくらで、トータルの見積もりがいくらになるか、AIが瞬時に判定してくれます。あとは自動発注すればいいだけなので、いままで場合によっては1、2ヵ月かかっていた作業が数分で済むようになるわけです。
平野 パーパスが設定されている企業ほど、いちばん大事なKPI(重要業績評価指標)が社内でしっかり共有されています。いまの例だと、お客様のもとに届くまでの時間がKPIになっているかもしれません。そこがはっきりしていれば、それを達成するために、AIを使えばこんなことができるし、こんなこともできるというふうに、ハーベストループを何重にも描くことができます。しかし、そもそもKPIがないと、何をどうすればいいのかがわからない。
入山 たしかにKPIの設定は大事でしょうね。このパーパスを実現するには、事業的にはこのKPIが重要で、それを上げたり下げたりして、理想とのギャップを埋めていくのを手伝うのがAIということですね。
堀田 私は去年シンギュラリティユニバーシティのエクゼクティブプログラムに参加して、未来のビジョンをどう描くか、パーパスをどう設定するかということを、5日間ほど缶詰になって突き詰める経験をしました。たとえば、シナモンAIの場合は、専門家の生産性を100倍に上げると謳っていて、何がどうなると世の中がよりよくなるのか、それが実現した後にどんな世界になっているのかを考えるとき、抽象化しすぎないために、KPIのような具体的な指標を設定するのは重要だと感じました。
入山 結局、物事は抽象的なこと、幅広なことと、その逆の具体的なことの往復運動みたいなものじゃないですか。その意味で、パーパスは広いんだけど、KPIは突き詰めるとこれ、という分け方は、すごくしっくりします。
早稲田大学ビジネススクール教授
1996年慶應義塾大学経済学部卒業。98年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2003年に同社を退社し、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)に就任。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)など。