デジタルトップの人事を見れば、
5年後の会社の姿がわかる

入山 アナログからデジタルへ、ハード主体からソフト主体へ移行するとき、日本中のCIOやCDOと呼ばれる方が苦労しているのは、まさにそこだと思います。逆に言うと、そのあたりがわかっている人が兼任でトップになっている会社は、大きく変わる可能性が高いんです。経路依存性を脱却できるからです。

 僕が最近期待しているのは、三井住友海上です。今度社長になられた舩曵真一郎さんはもともとデジタルのトップだったので、三井住友海上は変わる可能性を秘めています。デジタル改革してきた方がそのままトップになったので、脳内デジタルですから、大きく変わるはずです。

 同じように期待しているのが、三菱UFJフィナンシャル・グループです。亀澤宏規社長もデジタル出身なので、変革を期待したいです。

 僕から見て、すてきだなと思う会社ほど、社長の後継者候補のうち、この人が次期社長だろうと思われる人をデジタルのトップに置くケースが増えています。数年後、彼らが世代交代で社長になったら、本格的に変わってくるはずです。

堀田 それはおもしろい見方ですね。そういう人事を進める会社が増えてきたということですか?

入山 いえ、僕から見て、この会社はおもしろいなという会社はそうやっていますが、つまらないなという会社はやっていません、残念ながら。だから、シナモンさんが仕事をするときも、そういう感じで経営陣とかトップの人材がどうなりそうかを見ておくと、数年後にいい感じでお付き合いできそうかが、わかるかもしれません。

堀田 その視点はありませんでした。デジタル出身の方が社長になったり、意思決定をリードしていけば、『ダブルハーベスト』で書いたようなループを回しやすくなるはずです。私たちが「AIはこういう使い方をすると大きくなるんです」という話をしたときに、すぐにわかっていただける方と、わかるけど「とはいえ……」と社内事情でがんじがらめになってほとんど身動きがとれない方がいるのですが、その違いが実感としてよくわかりました。

入山 平野さんはいかがですか?

平野 ダイバーシティを進めていくためには、トップもそうですが、働き方も変えていかなければいけないなと思っていて、在宅ワークがメインなのか、それともオフィスに行くのかメインで、在宅ワークがたまに許されるという形なのかで、ずいぶん違ってきます。

 会社に行くのがメインだと、すべての情報がオンライン上には上がってこないので、オフィスに行けない人が徐々に不利な立場に立たされていく。それだと働き方は変わらず、結局、同じような人材がずっといるという形になってしまうわけです。

 本当にイノベーションを進めようと思ったら、多様な人材がいる必要があって、そうすると、多様な人材がいるための働き方を会社が用意しなければいけないというふうに考えていたので、その整合性をとるという部分を1人でやれば解決できるんだというのが、今日の大きなインサイトでした。

入山 多少でもお役に立つことができてよかったです。

デジタル責任者を見れば、その会社の5年後がわかる【ゲスト:入山章栄さん】平野未来(ひらの・みく)
シナモンAI代表
シリアル・アントレプレナー
東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。iOS/Android/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をミクシィに売却。ST.GALLEN SYMPOSIUM LEADERS OF TOMORROW、FORBES JAPAN「起業家ランキング2020」BEST10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019 イノベーティブ起業家賞、VEUVE CLICQUOT BUSINESS WOMAN AWARD 2019 NEW GENERATION AWARDなど、国内外での受賞多数。また、AWS SUMMIT 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグTHE YEAR AHEAD サミット2019などへ登壇。2020年より内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に就任。2021年より内閣府経済財政諮問会議専門委員に就任。プライベートでは2児の母。

国を越えて多様な人とつながる

堀田 『ダブルハーベスト』の考え方を含めて、日本のDXやAI戦略化の底力を引き上げていくことが私たちの願いです。そこに複雑な問題が全部絡み合っているというのが難しいところなんですが。

入山 国全体もそうなんです。はっきり言うと、日本の最大の課題は英語だと思っています。シナモンさんも、ベトナムやシンガポール、台湾でやられていますよね。それだけで全然違うわけです。ダイバーシティなんてわざわざ意識しなくても、はじめからあって当たり前の世界だからです。

 そういうわけで、自分たちが行くのでも、他の国の人を呼ぶのでもいいですけど、世界中の優秀なタレントとかリソースをうまく使っていく。たかだか1億人の国の中で、しかも若者が減っている中で、同質な人材だけでやっている場合じゃないんです。

 そのためには、英語でのコミュニケーションが必要です。下手くそでもかまわないんです。いろんな人が世界中から日本に来てくれて、日本からもどんどん海外に出ていくということが大事だと個人的には思っています。ちょっとずつ、そうなってきているんですけどね。

堀田 まったく同意見です。コロナが明けて、人の行き来が復活するのが待ち遠しいですね。本当にたくさんの気づきがあり、まだまだ話し足りないという気持ちはありますが、本日はここでいったん終わりとさせていただきます。どうもありがとうございました。

(鼎談おわり)