多くの企業にAIソリューションを提供する「シナモンAI」の共同創業者として、日本のDXを推進する堀田創さんと、数々のベストセラーで日本のIT業界を牽引する尾原和啓さんがタッグを組んだ『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』が、発売直後にAmazonビジネス書第1位を獲得し、さまざまな業界のトップランナーたちからも大絶賛を集めている。
今回のトークは、『ダブルハーベスト』に「まさにすべての経営者に読んでほしい、AI×ビジネスを体系化しきった実践本だ!」と熱いコメントを寄せる早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授をゲストにお招きする。
日本でAIの利用が進まないのはなぜか?「ハーベストループ」を回す前提となるパーパスをどのように設定すればいいのか? DXを推進するときの障害と、それを乗り越える具体的な方策について、著者の堀田さんとシナモンAI代表の平野未来さんが聞いた(最終回/全3回 構成:田中幸宏)。
AIを入れるだけでは何も変わらない
入山章栄(以下、入山) 大企業でDXを進めるとき、大きな課題だと思っているのは経路依存性(Path Dependence)です。デジタルで会社全体を変えなければいけないのに、なかなか変わらないのはなぜか。経路依存性を考えることがすごく重要です。
経路依存症というのは、とくに大企業さんはいろんなものがガッチリ噛み合っているから、全体としてうまく機能しているわけです。逆に言うと、うまく回っている分、時代に合わなくなったからといって、その一部だけを変えるだけでは変われない、ということでもあります。
デジタルとは関係ないけれど、その典型例が、ダイバーシティです。これはDXやイノベーションに関する講演でよく使う資料なんですが、ダイバーシティがずっと求められてきたにもかかわらず、日本で全然進まないのは、他の要素がガッチリ噛み合っていて、足を引っ張られてしまうからです。
たとえば、日本の典型的なレガシー大手企業で、多様な人を増やしたいなら、そもそも新卒一括採用と終身雇用をやめないとどうしようもないんです。新卒一括採用で多様な人材が採れるわけがないし、同じ人がずっと勤めていたら、多様性が増すはずがありません。ということは、メンバーシップ型雇用をやめなければいけなくて、かつ、多様な人が共存するためには、評価軸も一律である必要はなくて、むしろバラバラなほうがいいわけです。さらに言うと、多様な人がいるわけだから、働き方も多様である必要があって、ある人は会社で働きたいかもしれないけれど、ある人は家で働きたいかもしれない。ところが、コロナ前はリモートワークは全然進んでいなかった。というふうに、全部噛み合っているので、一部だけ変えてもしょうがないんです。
平成の30年間、残念ながら日本企業はほとんど変革できなかったと言われていますが、僕はその最大の理由がこれだと理解しています。ちなみに、『ダブルハーベスト』に推薦文を寄せている冨山和彦さんもまったく同じことをおっしゃっています。
堀田創(以下、堀田) そうですね。冨山さんの『コーポレート・トランスフォーメーション』(文藝春秋)は、まさに経路依存性の話でした。
入山 僕は冨山さんと100%同意見なので。まさにコーポレート・トランスフォーメーションで、会社全体を変えなければ変われない。他のアナログのレガシーシステムがガッチリ噛み合ってしまっているので、デジタルだけやろうとしても、AIだけ入れようとしても、変わらないんです。
全体を変えていくときにいちばん大事なのは、パーパスであり、経営者であって、それは前回までにお話したとおりです。それに加えて、最近、僕がテクニックとして言っているのは、役員の兼任です。というのは、大手企業は役員の数が多すぎなんです。先日、某金融企業さんに「役員は何人いらっしゃるんですか?」と聞いたら「70人」という答えが返ってきて、びっくりしました(笑)。
平野未来(以下、平野) それは多いですね(笑)。
早稲田大学ビジネススクール教授
1996年慶應義塾大学経済学部卒業。98年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2003年に同社を退社し、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)に就任。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)など。