多くの企業にAIソリューションを提供する「シナモンAI」の共同創業者として、日本のDXを推進する堀田創さんと、数々のベストセラーで日本のIT業界を牽引する尾原和啓さんがタッグを組んだ『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』が、発売直後にAmazonビジネス書第1位を獲得し、さまざまな業界のトップランナーたちからも大絶賛を集めている。
今回のトークは、『ダブルハーベスト』について「芯を捉えた内容。私があちこちで話していることとまったく同じ」と太鼓判を押すソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長の北野宏明氏をゲストにお招きした。
AIでできることとできないこと、ハーベストループを回す前提となるデータはどんなものか、DXを推進するときにAIをどうやって組み込むか、そのときに陥りやすい罠について、著者の堀田さんとシナモンAI代表の平野未来さんが聞いた(構成:田中幸宏)。
DXは単なる「デジタルへの置き換え」ではない
北野宏明(以下、北野) 北野です。シナモンには創業以前から関わっています。最初の出会いはIPA(情報処理推進機構)の未踏事業で、平野さんと堀田さんのプロジェクトを私のところで採択しました。その後、2人はネイキッドテクノロジーを創業して、数年後に売却。それからしばらくして、今度はシナモンを創業するというので、最初のラウンドで出資していまに至ります。
今回、堀田さんの『ダブルハーベスト』を読んで、さすがに芯を捉えた内容になっていると思いました。DX(デジタルトランスフォーメーション)といっても、単にデジタルへの置き換えではなく、全体のプロセスを見直す必要がある、それをダブルハーベストというビジネスサイクルに落とし込むのが大事だということで、私があちこちで話しているのとまったく同じことが書いてあります。ですから、この本をできるだけ多くの方に読んでいただいて、DX、AI化をしっかり進めていただきたいですね。
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長・所長
1984年、国際基督教大学 教養学部 理学科卒業。1991年、京都大学博士号(工学)取得。1993年にソニーコンピュータサイエンス研究所へ入社し、2001年より代表取締役社長・所長を務めている。株式会社ソニーAI代表取締役CEO、ソニーグループ株式会社常務、沖縄科学技術大学院大学教授、特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構会長、人工知能研究開発ネットワーク会長など。
平野未来(以下、平野) シナモンAI代表の平野です。学生時代から人工知能の研究をしていて、起業もしていたので、かれこれ15年以上起業家をやっています。北野先生には20歳のころからお世話になっているので、今日はこうしてディスカッションさせていただくのを楽しみにしてきました。
堀田創(以下、堀田) 『ダブルハーベスト』を出版した堀田です。この本は、AIをビジネスにどう組み込んでいくか、という観点でまとめています。ところが、「いまある仕事をAIを使ってよくしよう」という発想からスタートすると、往々にして「ちょっとやればできること」に終始してしまう。よくあるのがコスト削減で、いままで1億円かかっていた作業にAIを使えば、比較的簡単に5000万円カットできるかもしれない。しかし、そうなると、次やるときには、今度は5000万円がベースになるから、カットできるのは2000万、1000万円……になって、どんどん話が小さくなってしまうのです。
私たちが戦略と呼んでいるのは、そういう縮小均衡に向かうものではなく、むしろデータをためて事業を拡大していく、どんどん競争優位になっていくというものです。AIの恩恵はあとになるほど増加する、つまり指数関数的な曲線を描くはずで、そのためにAIをどう使いこなすかという視点が欠かせません。
「ハーベスト」という名前には、データを収穫するという意味が込められています。すでにあるデータを使ってAIで何かをやるというよりも、データを収穫する持続サイクルを築けるかどうか。それはいまあるデータ資源を狩り尽くしておしまいの狩猟時代から、データを育てて持続的に収穫し続ける農耕時代への発想の転換です。そうした収穫ループをダブルで回す、つまり二毛作、三毛作にしていくことで、事業がそう簡単には追いつかれない、頑健なものになっていくというのが、本書のメッセージです。
本書では、インテルに1.7兆円で買収されたイスラエルのベンチャー、モービルアイのケースをはじめとして、ハーベストループの事例をいくつか紹介しています。具体的なループのつくり方の手順もしっかり解説しているので、ぜひ本書を読んでいただきたいのですが、実は、私たちシナモンAIでは、海外事例を含めて300を超えるケースを分析しています。そうした知見をもとに、御社ならこういうタイプのループが描けるのではないかとご提案させていただいたり、できるだけ多くの方に知っていただくために知識コミュニティを立ち上げたりしています。