高杉良氏高杉良氏 (C)新潮社

高杉良氏の新作『破天荒』(新潮社)が刊行された。巨匠の新作は自伝的経済小説である。高杉氏といえば、90年代平成金融危機のさなかに発表した『金融腐蝕列島』シリーズで、今日のメガバンクの誕生を精緻に、そして劇的に予告したことで知られる。小説が事実より先行したのである。『破天荒』は経済記者の第一歩から今日まで叙述しているが、このインタビューでは10代の発端の季節を中心に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)

17歳で小説発表
19歳で業界紙に就職

――自伝的経済小説という惹句どおり、新作の『破天荒』は、高杉さんが業界紙記者を経て、経済小説の作家として勇名をはせていく実名の物語です。高度成長期以降の日本経済史を主調に描いて読みどころ満載ですが、一番驚いたのは、高杉さんがなんと10代で経済記事を書いていたことです。

高杉 高校生のとき、17歳で書いて初めて雑誌に掲載された作品が「自轉車」でした。

――「自轉車」は本書『破天荒』の巻末に収録されていますが、短編小説ですね。小説を10代で書いてデビューした作家は何人もいますが、経済記事を書いた10代の記者は高杉さんだけではないでしょうか

高杉 そうかもしれませんね。石油化学新聞社へ就職が決まったのは1958年10月でしたから19歳でした。

――『破天荒』を読まんとする読者には、まず「自轉車」を先に読んでほしいです。

高杉 そうですか?

――『破天荒』は高杉さんが入社試験に合格し、日曜日に呼び出されるところから始まります。19歳で業界紙の門を開けた少年は、「自轉車」の主人公でもあり、「自轉車」の舞台は入社の2年前ですから、小説に登場する繊細な少年が、経済記者に転じる物語が『破天荒』の背後にあることを知るのです。少年、すなわち高杉さんが経済記者を志すきっかけはあったのですか。

高杉 いや、ある日何気なく新聞を読んでいたら、石油化学新聞社の募集広告に目が留まっただけです。専門紙・業界紙だったらどこでも入れると思ったわけですよ。応募者は84人で、合格は2人でした。作文の試験はペラ20枚の原稿用紙に「合成樹脂について思うこと」を書くという問題で、20~30分で書いたことを覚えています。経済知識なんかありませんでしたが、小説を書いていたわけだから文章力はあり、書く速度も早かったんですね。