左から中国語、日本語、英語版の『三体』。ほかにもポーランド語やロシア語などに翻訳されており、世界中で異例の大ヒットを記録している Designed by Daddy's Home

7月上旬に日本で発売された中国発の長編SF『三体』が快進撃を続けている。出版元の早川書房によると、発売1ヵ月で販売10万部を突破。国内市場では10万部を超えればベストセラーと呼ばれるが、海外の翻訳SFがベストセラーになることは「記憶にないぐらい、極めてまれ」(早川書房の編集者)という。ツイッターなどSNSで「読んだ」「すごかった」と書き込む人も目立つため、一体どんな作品なのか気になっている人も多いだろう。『三体』はいったい、どこがすごいのか。(ダイヤモンド編集部 杉本りうこ)

30~40代のビジネス層が
ハードSFを読む異例

 『三体』の主人公は、文化大革命で物理学者の父を亡くした中国人女性科学者。人間という存在に絶望した主人公が、軍事基地で行われる秘密プロジェクトに参加したことをきっかけに、地球の未来をゆるがす壮大な企みに関わっていくというあらすじだ。

 作者の劉慈欣氏は、現実の天文力学で論じられている「三体問題」(三つの物体が引力で引き合う場合の動き方を考える問題)に着想を得て執筆した。SFの小分類としては、ハードSFと呼ばれる科学的な知識・ロジックに基づくジャンルに属する。ハードSFは読み手にも一定程度の知識を求める作品が多いため、SFファン以外にはやや敬遠されがちなジャンルだ。

 『三体』はハードSFであり、448ページと長編であるにもかかわらず、総合書店サイト・honto(丸善、ジュンク堂、文教堂などの販売データを集計)で、小説・文学月間ランキング2位(8月20日現在)になるなどヒット中。このランキングでは1位が東野圭吾氏の新刊『希望の糸』、3位が池井戸潤氏の『ノーサイド・ゲーム』であることを踏まえると、人気ぶりがうかがえる。発売当初は売り切れになる書店もあった。

 翻訳SFとして近来まれにみる販売部数である以外にも、「通常のSF作品は50代以上が読者であることが多いが、『三体』は30~40代とより若い層に読まれている。また、ビジネスパーソンが『仕事の知り合いに勧められた』と言って求める例が目立つ」(早川書房SFマガジン編集部の梅田麻莉絵氏)などと、この作品ならではの現象が起こっている。