田村正和さんの代表作『古畑任三郎』
放送当時の印象
俳優の田村正和さんが4月に亡くなられていたことが分かりました。 田村さんと同じ時代を生きてきた世代として、心に思うことがたくさんあります。今回は追悼記事として、田村正和さんの代表作である『古畑任三郎』について評論家の立場からお話しさせていただきます。ご冥福をお祈りします。
1994年4月13日、フジテレビで放送された『警部補・古畑任三郎』の第1回にチャンネルを合わせたのは偶然でした。当時すでに、田村正和さんはドラマでも大活躍で、『パパはニュースキャスター』『ニューヨーク恋物語』『パパとなっちゃん』など、のちに代表作と呼ばれる数々のドラマが放送されていた時代でした。
仕事を終えて家に帰って、新聞のテレビ欄を見ながら適当にチャンネルを合わせるというのが、その当時の日本人の日常でした。
「なんだろう?『警部補・古畑任三郎』って?」と思ってチャンネルを合わせたのが、偶然の出会い。ネットのない時代は、そうやって新番組を見始めるものでした。
異色のドラマでした。雨と土砂崩れで足止めをくらった警部補の古畑任三郎が、電話を借りに訪れた中森明菜さん演ずる小石川ちなみの山荘で、事件に遭遇します。ドラマの舞台は1時間ずっとその山荘で、場面はふたりのやりとりだけ。事前の情報がないままにそれまでにないドラマを見始めることになったわけです。
山荘には死体があって、状況的には事故死なのですが、視聴者は冒頭のシーンから中森明菜さんが犯人だとわかっている。その後、田村正和さんとの丁々発止(ちょうちょうはっし)のやりとりがあり、ダイイングメッセージ(死者が残す犯人を指す証拠)が無いことからの推理で「犯人はあなただ」と見抜く。
ドラマを最後まで見て、視聴者は気づくわけです。「ああ、これは『刑事コロンボ』だ」と。