スピーチの冒頭と、ガバニングが使われている箇所を抜粋する。

“Today, I want to tell you three stories from my life.
Thatʼs it. No big deal. Just three stories.”
(今日ですが、私はみなさんに、人生から学んだ3つのことをお話ししたいと思います。それだけです。たいした話はしませんから。ほんとたった3つの話しかしませんから)

“The first story is about connecting the dots.”
最初の話は点と点をつなぐということです)
…(中略)…

“My second story is about love and loss.”
2つ目の話は愛と喪失に関するものです)
…(中略)…

“My third story is about death.”
私の3つ目の話は死に関するものです)
…(後略)

【出典】畠山雄二『英文徹底解読:スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式講演』ベレ出版(2015年)

 続くスピーチは、そのガバニングの案内に沿って進んでいく。このため、スピーチの全体像が理解しやすくなっている。

 このスピーチが人を動かし、評価されるに至る理由は、内容がすばらしいのはもちろんだ。だがそれに加えて、「ガバニング」という技術による部分も大きい。ジョブズが意図して使ったものか、天性の無意識によるものかは定かではないが。

ジョブズの対極にあるものの典型は、どこまで話題が続くのかよくわからない「小学校の卒業式などでの来賓のスピーチ」であろう。やっと終わったと思ったら「そして……」と、終わりが見えない苦痛の時間が続くのである。

「ガバニング」を使いこなそう。すると、単に羅列されただけの箇条書きが、短く、魅力的な箇条書き、すなわち『超・箇条書き』にまた一歩近づくのである。

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杉野幹人(すぎの・みきと)
A.T. カーニーマネージャー
東京農工大学工学部特任教授
東京工業大学工学部卒。INSEAD MBA修了。早稲田大学商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)大学卒業後、NTTドコモに就職。シリコンバレーで仕事を共にした500人以上の起業家のプレゼンや提案資料から、箇条書き(Bullet points)で短く魅力的に伝えることのパワーとその技術を学ぶ。世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを修了後に、グローバル経営コンサルティングファームのA.T.カーニーに参画。経営戦略、マーケティング戦略、新規事業、経営会議運営支援等の幅広い経営コンサルティングプロジェクトを手掛けている。箇条書きを用いた経営者向けのプレゼン・資料作成の経験は300回を超える。現在は、箇条書きを基礎としたストーリーライティングの技術を東京農工大学でも教えている。著書には単著として『使える経営学』(東洋経済新報社)、『会社を変える会議の力』(講談社現代新書)、共著として『コンテキスト思考』(東洋経済新報社)がある。