毎年5月31日は、WHO(世界保健機関)が制定した世界禁煙デーだ。例年、「たばこ業界から次世代を護れ」「たばこと肺の健康」など婉曲なテーマが掲げられるが、今年はズバリ、「Commit to quit(禁煙に取り組もう)」だ。喫煙がCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)重症化/死亡リスクであることが明確になり、遠回しの表現では手ぬるいと感じたのだろうか。「COVID-19のパンデミックを機に、数百万人の喫煙者が禁煙したいと言っています。今こそ誓約書にサインして、今日から禁煙しましょう」とのサブメッセージが続いている。(医学ライター 井手ゆきえ)
欧州ではロックダウン下で
喫煙量が増える人も
喫煙やそれが誘発するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や心血管疾患、2型糖尿病などの全身疾患がCOVID-19の重症化リスクになることは、この1年あまりでイヤというほど思い知らされた。
日本では職場の喫煙所から感染クラスターが発生したケースも報告されている。狭い空間で「煙を吹かしあう(当然、マスクはない)」行為が飛沫感染リスクになることは容易に想像できるだろう。さらに喫煙する際に指を口にあてる行為も感染リスクを高める。パンデミック下の喫煙は直接・間接にあなたの命を危険にさらすのだ。
だが一方で、外出制限や隔離に伴うストレスが高じて逆に喫煙量が増える傾向にあることも判明している。欧州21カ国で行われた調査では、第1波の厳格な都市封鎖(ロックダウン)中に喫煙量が増えたことが、使用者のオンライン調査からも裏付けられた。
今後、COVID-19の隠れ後遺症として喫煙による疾患の増加が懸念されるほどだ(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8072737/ 参照)。
米国でも同じような調査結果が報告されている。米50州中42州の成人住民1276人を対象に2020年4月13日~6月8日の生活行動を調べた結果、もともとたばこを吸う人の5人に2人、同じくVAPE──いわゆる電子たばこ利用者の半数、2人に1人で使用量が増えたという。
本調査では、不安と不健康な食・嗜癖(しへき)行動との関係も見ているが、不安が強いほど、たばこやVAPEの使用量が増える可能性が高かった(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8073729/ 参照)。
重症化リスクを増大させるとわかりつつ、外出制限に伴うストレスや経済的な不安などからたばこに手が伸びる気持ちは理解できる。しかし、少なくともあと1年はCOVID-19との付き合いが続きそうな今、感染リスクを避けながら重症化リスクを体に蓄積しては意味がない。
感染を免れたとしても、COVID-19から解放された後に、喫煙が誘発する病気を発症してしまったら何とも割に合わないだろう。やはりここは一念発起して、禁煙を試みる機会ではないだろうか。