消費者の関心が「所有」から「利用」へと移行しつつあるなか、急成長をとげているのがサブスクリプション企業だ。音楽・動画配信などで日本でも知られるようになったこのビジネスモデルが、いま、なぜ伸びているのか。話題の新刊『サブスクリプション』(ティエン・ツォ著)の本文から一部抜粋してお送りする。
スティーブ・ジョブズ vs プリンス
今日、米国の3000万人以上が音楽ストリーミングサービスにお金を払っており、米国の音楽ビジネスの売上の半分以上を占めている。すべてのリスニング体験とそれに伴う発見があらゆる種類のプラスの副次効果をもたらす。音楽産業の売上高は、15年間減少を続けた後、2017年に増加に転じた。
ソニー・ミュージックエンタテインメント(Sony Music)のエドガー・バーガー元CEOは、『ビルボード』誌に、音楽ビジネス全般にも有料のストリーミング・サブスクリプションにも明るい未来が待っている、と語った。
「このまま行けば業界は間違いなく成長する。有料サブスクリプションに消費者が魅力を感じ、市場で主流のフォーマットになることは間違いない。いま音楽産業は、同時に進行する3つの移行をコントロールしようとしている。有形物(フィジカル)からデジタルへ、PCからモバイルへ、そしてダウンロードからストリーミングへという3つの移行だ。その点で業界は非常にうまくやっていると思う。そこに有料サブスクリプション・モデルが加われば、音楽産業は安定した顧客ベースを確保できる」
iTunes型のダウンロードが減少していることについて付け加えると、スティーブ・ジョブズはほぼすべてのことを正しく行ったが、ストリーミングサービスについては判断を間違った。
彼は2002年に「音楽のサブスクリプション・モデルは破綻している」と『ローリングストーン』誌に語っている。「『セカンド・カミング』〔ザ・ストーン・ローゼズのヒットアルバム〕をサブスクリプション・モデルで提供しても、うまく行かないのではないだろうか」とも述べている。
同じ年にデヴィッド・ボウイは、「音楽は水道や電気のようになるだろう」と語って先見性のあるところを示した。ボウイはデジタル・サブスクリプション・サービスを通じてファンと直接つながったアーティストの先駆けだった。彼はファン限定でボーナストラック、写真、ビデオ、そして独自のISP〔インターネット・サービス・プロバイダ〕であるボウイ・ネット(BowieNet)でウェブスペースとメールアドレスを提供した。