著者はハーバード大学とスタンフォード大学に計11年在籍し、世界的権威の2大科学誌『ネイチャー』『サイエンス』に論文が掲載されたスーパードクターだ。
帰国後、東京・錦糸町に「眼科 かじわらアイ・ケア・クリニック」を開設するやいなや、地元だけでなく、噂を聞きつけて全国各地から来院する患者が後を立たない。そんなカリスマ名医の初の著書『ハーバード × スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25』から、誤解だらけの目の常識と自宅で気軽にできる一生モノの目の健康法を科学的な事実に基づいてお伝えする。
放っておくと怖い目の症状【実例】
頭痛と吐き気がひどくて
眼科に駆け込んだら失明を免れた→急性緑内障発作(きゅうせいりょくないしょうほっさ)
会社の健康診断(眼圧検査)で「緑内障」の可能性を指摘された40代の女性は、自宅から近いということで私のクリニックを訪れました。
検査してみると、幸いにも緑内障ではありませんでした。
しかし、「急性緑内障発作」を起こしやすい目の形状なので、定期的に検査を受けるように念を押しておきました。
私たちの目は、目の表面を潤す涙とは別の水(房水=ぼうすい)が目の内側で絶えず産生され、「角膜」など血管がない組織に栄養を与えたり、「眼圧」を調整していたりします。
眼圧というのは「眼球内の圧力」のことです。
まぶたの上から眼球をそっと触ると弾力を感じますが、これは眼球内を満たしている房水の圧力によるものです。
この房水による眼球内の圧力を「眼圧」というのです。
房水は目の中を循環した後、静脈へと排泄されますが、水分の出口(隅角=ぐうかく)が狭い人が一定の割合でいます。
特に視力がよかったり遠視だったりする人の目は、この出口が狭い傾向があります。
そして房水の出口が狭い人は、加齢によって水分が詰まりやすくなる可能性があるのです。
出口が狭くて行き場がなくなった水分によって眼圧が高まると、視神経を圧迫します。
眼圧が「50~60mmHg(ミリメートルエイチジー)」(正常値は10~21mmHg)以上になると、視神経が急激にダメージを受け、数日以内に失明する可能性が高まります。
この状態が「急性緑内障発作」です。
急性緑内障発作のやっかいなところは、発作が起きたときの症状が目の痛みだけでなく、「激しい頭痛」や「吐き気」のほうが、むしろ強い場合があるということです。
こうした症状で救急外来に行っても、真っ先に疑われるのは脳の疾患です。
CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(磁気共鳴映像法)で調べても脳の異常は見つからず、原因不明で痛み止めを処方されて帰されるケースもあります。
検査をして数年後、この女性は明け方に急激な頭痛と吐き気を感じ目が覚めました。
「急性緑内障発作」を起こしやすいといわれていたので「もしかしたら?」と、すぐに眼科の診療を行っている救急外来を受診しました。
そこで、早急に詰まった房水の出口をレーザーで広げ、眼圧を下げるなど複数の処置を受けたことで、幸いにも失明を免れたのです。
急性緑内障は、虹彩炎や糖尿病などの眼底出血といった、ほかの病気によって隅角が詰まって起こる「続発性」のものもあります。