著者はハーバード大学とスタンフォード大学に計11年在籍し、世界的権威の2大科学誌『ネイチャー』『サイエンス』に論文が掲載されたスーパードクターだ。
帰国後、東京・錦糸町に「眼科 かじわらアイ・ケア・クリニック」を開設するやいなや、地元だけでなく、噂を聞きつけて全国各地から来院する患者が後を立たない。そんなカリスマ名医の初の著書『ハーバード × スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25』から、誤解だらけの目の常識と自宅で気軽にできる一生モノの目の健康法を科学的な事実に基づいてお伝えする。
放っておくと怖い目の症状【実例】
目の前に大量のクラゲが浮いて見えたのに
「痛くないから様子を見よう」とそのままに→網膜剥離(もうまくはくり)
「モヤモヤしたゴミみないなものが浮かんで見えるときがある」
もしあなたがそういったら、周りにいる人ほぼ全員が「私もそう」「いつもあるよ」と答えるでしょう。
でも「みんながそう」だからといって、放っておいてもいいとは限りません。
明るいところや白い壁を見つめたとき、蚊や髪の毛、糸くずのようなものがあたかも浮遊しているように見える。
まばたきをしても浮遊物が視野に残る。
そして、視線を動かしても一緒に移動するけれど、暗い場所では気にならなくなる。
こんな症状を「飛蚊症(ひぶんしょう)」といいます。
中には「目の前でクラゲがうじゃうじゃ動いているように見える」というケースもあります。
そんな飛蚊症の正体は、目の中にあります。
私たちの眼球の中には、「硝子体(しょうしたい)」と呼ばれるゼリー状の透明な物質が詰まっています。
目の外から入ってくる光は、このゼリー状の「硝子体」を通って目のフィルムといわれる「網膜」まで届きます。
ところが、硝子体に濁りが生じたり、硝子体を包む膜にシワができたりすると、その影が網膜に映って蚊や髪の毛、糸くずのようなものがあたかも浮遊しているように見えるのです。
濁りやシワの原因は、放っておいても大丈夫な生理的なものが多い一方、“網膜剥離の前兆”という場合もあります。
飛蚊症の症状を自覚したら自己診断せず、眼科医による検査をしたほうがいいです。
私のクリニックを訪れた50代の女性は、あるとき急に「目の前に浮いているクラゲの数が増えた」と感じたそうです。
でも「目が疲れているのかな?」と、しばらく様子を見ることにしました。
というのも、クラゲがうじゃうじゃ見える日もあれば、少なくなる日もあったからです。
そんな状態が3週間ほど続いた後、なかなかクラゲの数が減らないため、私のクリニックを訪れたのでした。
この女性の場合、検査をすると眼球のゼリー状の物質である「硝子体」が少し縮んだとき、目の一番奥にあって光を受け止めるスクリーンの役割である「網膜」を強く引っ張って穴が開いていました。
その裂け目から網膜が浮き上がって「網膜剥離」を起こしていたのです。
すでに広い範囲で網膜が剥離しており、手術以外の選択肢はない状態でした。
緊急で手術の手配をして、幸いにもそれ以上の剥離を食い止めることができました。
しかし、3週間も「様子を見る」ことなくすぐに来院されていれば、レーザーで処置するだけで手術の必要はなかったかもしれないのです。
会社を休んで入院したり安静にしなければならなかったりと、手術をすると大変です。
このように飛蚊症には目の網膜に穴が開いて発症するケースがあり、網膜剥離の前兆という場合もあるので、放置すると失明する恐れもあります。
だからこそ、飛蚊症を自覚したら検査をするべきなのです。
網膜剥離以外にも、さまざまな種類の眼底出血でも飛蚊症は起こりますから、「これくらいは大丈夫」と考えるのは危険です。