そもそもコロナ対策は、「感染拡大を防ぐ対策」だけではない。「医療体制の確立」「ワクチン開発・接種」も同時に行われなければならない(本連載第275回)。

 そんな中、日本のコロナ対策は、当初「医療体制を守ること」を最優先としていた。「PCR検査」の実施数が諸外国と比べて抑えられたことについて、専門家は「医療逼迫、医療崩壊を起こさないため」だと説明していた(第273回・p3)。

 しかし、専門家会議・分科会では、医療体制、特に重症病床の十分な確保の議論が行われなかった。2020年5月の分科会では、経済学が専門である委員の小林慶一郎氏、大竹文雄氏らから、新型コロナ重症者病床増のために1兆円程度の財政資金を投入することが提起された。だが、尾身会長はその提案を退けてしまった(木村, 2021)。

 その後も、分科会で医療体制の問題はほとんど議論されてこなかった。分科会の議事録を確認すると、昨年12月、医療逼迫・医療崩壊の危機を理由に2度目の「緊急事態宣言」が発令された後、第22回(21年1月15日)にようやく「医療提供体制の課題」が議論された。

英国にできて、日本にできない医療体制チェンジ

 一方、感染者数が何十倍もの欧米で「医療崩壊」が起きたという話は聞こえてこない。

 例えば、英国の医療体制がどうコロナに対応したのか、振り返ろう。

 元々、英国のナショナルヘルスサービス(NHS:国営の医療サービスを提供するシステム)では、風邪や季節性インフルエンザでは病院での入院はおろか、診察すらしてもらえない。この私自身が英国在住時に経験したことだが、NHSの受付窓口で簡単に診断されて処方箋をもらい、薬局で薬を買って自宅で休むだけだ。

 ところが「平時」にはそんな状態なのに、新型コロナという「有事」になると、医療体制をガラリと変えた。昨年3月にロックダウンを実行したと同時に10日間程度で、国内の医療体制を新型コロナ用にシフトしたのだ。新型コロナ感染症用の病床を確保し、ICUを増床し、さらに「ナイチンゲール病院」という名称の専用仮設病院を全国に設置した

 これは、病院が国の管轄下にあり、トップダウンで組織を動かせるからである(讃井將満『Humony International特別連載 第45回:イギリスの医療体制、検査体制』)。

 一方、病院数で約8割、病床数で約7割を民間病院が占める日本では、英国にはない複雑な問題がある。