高齢化は社会のさまざまな面で大きな問題となっているが、マンション管理においても例外ではない。2018年に実施されたマンション総合調査でも、マンションの管理組合運営における将来への不安のトップは「高齢化」という結果が出ている。マンション管理では、高齢化による弊害が顕在化するまでは事前の予防が難しく、対策を打ちにくいため、さらに管理組合の対応を難しくしているのだ。(株式会社シーアイピー代表取締役・一級建築士 須藤桂一)
滞納、認知症、孤独死…
管理組合を待ち受ける多くの課題
先日、ある築40年超のマンションの管理組合理事長からこんな相談を受けた。マンションの一室を所有する90歳の女性から「自分がいなくなったら、自室を管理組合に寄贈したい」との申し出があり、どう対応したらよいか、という内容だった。
その女性は、配偶者を亡くし、子どももなく、ずっと独居生活をしている身の上で、特に相続させたい親戚もいないということだった。「終活」の一環として、日頃自分のことを気にかけて、いろいろと面倒を見てくれている管理組合に、感謝の気持ちとして自室の寄贈を考えたらしい。
この話のようなケースはそうそうあることではないが、近年、高齢の区分所有者に関するトラブルや悩み、相談事を抱えている管理組合が増えていることは確かだ。
マンション管理における高齢化問題は、管理費や修繕積立金の滞納が入り口となり、そこから認知症や孤独死、そして所有財産の処分など、さまざまな課題が待ち受けている。管理費等の滞納問題については、以前の記事『マンションの管理費等の「滞納」は、いずれ必ず社会問題に発展する』で説明しているので参考にしていただきたいが、今回は高齢化問題の中でも、特に管理組合との関わりが大きい認知症、死亡と財産処分に絞って話をしていこう。
まず、高齢の区分所有者が認知症になった場合だ。認知症といってもいろいろな症状や進行の度合いがあるので一概にはいえないが、本人に判断能力がない状態の場合、管理組合は非常に苦労することになる。それが独居の高齢者ともなればなおさらだ。
輪番制で順番が回っても、理事を任せることができないのは当然として、たとえば「徘徊」の症状があった場合、本人がきちんと鍵を持って出掛けることは考えにくく、外から無事に戻ってきたとしても、オートロックで閉め出されてしまう。同居する家族がいるならまだしも、独居の高齢者の場合、本人がふらっと外出してしまわないように、隣近所の住人や理事会は見守りなど何らかのケアが求められ、その対応だけでてんてこ舞いになるだろう。
ここで、認知症に関する問題と対処法をひとつひとつ挙げることはしないが、独居の高齢者が認知症になった場合、管理組合が果たすべき役割はとても大きいといえる。しかも、大変な労力が必要とされる一方で、その努力が報われないことも多くあるという点を覚悟しなければならない。