コロナ禍においても堅調・好調を維持しているホテルがある。小規模なラグジュアリーリゾートだ。3件の事例を通して、勝因を分析してみたい。(オータパブリケイションズ マネージングディレクター 岩本大輝)
コロナ対策は初動が肝心
客室改装で単価アップに大成功
東京から車で約1時間半、神奈川県・湯河原に、コロナ禍をものともせず、客単価を上げ続けている宿がある。千歳川沿いに立地する小規模高級旅館「万葉の里 白雲荘」だ。
温泉かけ流し露天風呂付の離れ3室をはじめ、全17室に大きな風呂が付いており、木々に囲まれた静かな雰囲気の中、季節の料理を楽しむことができる。
白雲荘の単価は、コロナ禍が始まった2020年3~6月が2万8497円、Go To トラベル(旅行代金が実質半額になる政府の支援策)実施期間中の同年7~11月が3万1413円。そしてなんと、Go To中止後にもかかわらず、同年12月~21年5月は3万3131円に引き上げることに成功している。
白雲荘を運営するのが、神奈川・箱根や山梨・石和で宿を運営するほか、旅館やホテルの事業再生とコンサルティングを手掛ける専門会社、リアルクオリティだ。
白雲荘は当初、某投資会社の再生案件で、リアルクオリティが運営を担当し、オペレーションを大きく変更してきた(現在は再生を完了し、同社が株式を保有)。高級旅館にありがちな、仲居が付きっ切りで接客するスタイルを廃止し、「ウェルカムドリンクはドリンクバーでお客様自身が取り、部屋の案内はご希望の方のみ行います」(小林豪・リアルクオリティ社長)。再生過程で新しくコンセプトにした、客と従業員の「心地よい距離感」が、コロナ禍におけるニーズの変化に合致した。
そしてコロナ禍初期、多くの施設が休業する中で、営業を続けた。大浴場を貸し切り制に変更し、ダイニングではテーブルの間隔を2m以上空け、希望する客には変更無料で食事を個室で提供するなど、コロナ対策を徹底した。「先行して安心・安全の仕組みを作ったおかげで、ほかの宿が休業中でも、お客さまをお迎えできました。その期間の口コミはコロナ対策を評価していただいたものが多いです」(小林社長)。
白雲荘はさらに攻めの姿勢を崩さなかった。コロナ禍初期に資金繰り対策として複数の融資を受けたが、他者に先駆けた取り組みが奏功し、懐が大きく痛むことはなかった。そこで、Go Toによる需要回復をにらみ、人気の高い露天風呂付き客室の改装に着手したのだ。結果は大成功。「部屋や備品が新しい」「きれいで、清潔感がある」といった口コミが増え、さらに評価が上がった。
「コロナ禍では金額の高い、露天風呂付きのお部屋から売れています。Go To中止後は稼働率が下がっていますが、単価が上がっている分、利益率は高くなっています」(小林社長)
外資系ホテルをはじめとした大手宿泊施設に比べ、ブランド認知の低い小規模な宿にとって、インターネットの口コミは「生命線」だ。他社に先行してコロナ対策を徹底し、SNSなども駆使してPRに努め、客室改装にも踏み切ったことで、評判が評判を呼び、さらに客が集まる好循環が生まれたのだ。