脳裏に焼き付く
ハイアールCEOの寂しい笑顔

 今から十数年前、今や中国の最大の家電メーカー・ハイアールを訪れた私は、CEOの張瑞敏氏を取材した。当時、ハイアールがアメリカに進出した直後なので、中国メディアはハイアールを高く持ち上げていた。しかし、インタビューに応じた張氏は、至って冷静だった。日本では、私が最初にハイアールを取り上げたこともあり、張氏は自らの考えを包み隠さずに打ち明けてくれた。

「中国メディアは、アメリカに進出した私たちのことを高く評価してくれているが、私は全然嬉しくは思っていない。むしろ、プレッシャーを感じている。世界では、私たちはまだ弱小なので、私たち1社では、とても中国企業という旗を掲げられない」。

 さらに、つぎのようにしみじみと日本企業の存在を語った。

「日本企業を見てください。私たちは日本企業という言葉を口にしたとき、松下電器(現パナソニック)、ソニー、東芝、日立など多くの企業の社名が浮かび上がる。たとえて言うなら、日本企業というのは、多くの星からなる銀河なのだ。その中のどの星も、他人がまねできない輝きを放っている。しかし、世界に出た私たちは、孤独だ。ハイアール1社だけでの海外進出は栄光ではなく、孤独そのものだ。いつか、中国企業も日本企業に負けない銀河のような存在になって、その中に、自分なりの輝きを放つ星のひとつとして、私たちハイアールが存在するというような日を迎えることができたら、私は手放して笑う」。

 寂しそうな笑みを浮かべながら、とつとつと語る張氏の横顔を見つめながら、私も思わず大きく頷いた。