変動費と固定費
ヒカリはもういちど、損益計算書を見直してみた。さっきは見落としていたいろいろなことに気づいた。
まずは「変動費」「限界利益」「固定費」の区分だ。いままでこれらの用語を曖昧なまま使っていた気がした。ヒカリはテキストを開いた。そこには、こう書かれていた。
〈費用はその性質によって「変動費」と「固定費」に分けることができる。「変動費」は売上が増えれば増加し、売上が減ればいっしょに減少する費用で、「固定費」は売上の変動とは関係なく固定的に生じる費用で個別固定費と共通固定費に分けることができる〉
ヒカリは千の端店を思い浮かべた。材料費は料理に使われるのだから変動費であることは納得できた。固定費はどうか。家賃や設備の償却費、ロミーズの正社員である店長の給料は毎月同じだから、明らかに固定費だ。しかし、季節によってエアコンの電気代は違うはずだし、石鹸やトイレットペーパーなどの消耗品は客の入りによって毎月増減するのではないだろうか。アルバイト代だって、毎月多少は変動するのではないか。これらを固定費に分類するのは正しいのだろうか。
ヒカリはテキストを読み進めた。するとこんなことが書かれていた。
〈これらの費用は明確に「変動費」と「固定費」に分けることはできない。そこで、実務上は、「変動費」を材料費や外注費に限定して、ほかはすべて固定費とみなす会社が多いようだ。これは一見、簡便的な分類方法のように思われがちだが、実は理にかなった方法である〉
たしかに細かく考えるとキリがないから、変動費を材料費に限定してしまうというのは、簡単でいいかもね、とヒカリは思った。
ヒカリはページをめくった。
〈限界利益は、売上高と変動費の差額である〉
「簡単!」と思った瞬間、自信がなくなった。限界利益とはいったい何を意味しているのだろう。イメージがわかないのだ。