チーム内のエンゲージメントにばらつきがあると、生産性は低下する
――エンゲージメントの高さと生産性には相関関係があるのでしょうか。
山本 エンゲージメントが高いと、主観的な生産性が上がるということは研究結果から分かっています。主観的な生産性とは「どれくらい積極的にできているか」といった質問に対して、本人がパフォーマンスについて答えるというものです。
一方、客観的な生産性との関係についてはまだ研究が進んでいないのですが、現在私はユトレヒト大学(オランダ)のウィルマー・B・ シャウフェリ教授、早稲田大学の黒田祥子教授、慶應義塾大学の島津明人教授らとの共同研究で、従業員エンゲージメントのサーベイ結果と売り上げの関係を調査中です。この研究から、部署ごとの従業員エンゲージメントの平均が高いと、一人当たりの売り上げが高くなるという結果が出ています。
この共同研究でもう一つ注目すべき点は、チーム内でのエンゲージメントが平均的に同じであっても、エンゲージメントのばらつきが小さい部署ほど生産性が高くなるというものです。一人のハイパフォーマーが部署全体の売り上げを引き上げても、それ以外の人たちのエンゲージメントが高くなければ、一人当たり売上高はむしろ下がることがあるという結果が出ました。エンゲージメントの平均値の推移を追うことは大事なのですが、一人ひとりのエンゲージメントスコアを見て、個々のエンゲージメントをどう高めていくかを考えることも重要といえるでしょう。
――withコロナの状況下で、働く人たちの心理やパフォーマンス、組織との関係にはどのような変化が起きているのでしょうか。
山本 コロナショックは働く人たちの価値観に大きな影響を与えました。その結果、多様性がさらに高っています。例えば、コロナ禍をどう捉えるかは人によって違いがありますし、同居家族の有無などによってリモートワークを希望する度合いも異なります。個々のそうした価値観を考慮せずに、緊急事態宣言が終わったからといって一律に出社を義務付けたりすると、エンゲージメントが下がることになりかねません。
もう一つ、リモートワークの進展によって、ビジネスの慣習が見直されたり、不要な業務があぶり出されたりしたことで、仕事への意識が変わるきっかけになりました。働き方はこれでいいのだろうか、この会社で働き続けていいのだろうか、と考えるようになった人も少なくないでしょう。これまで以上にエンゲージメントを高めるのは難しくなり、ばらつきも大きくなると考えられます。
コロナの先行きが今以上に不透明だった2020年3月末の調査で、リモートワークができている人とそうでない人を比べると、従業員満足度や会社に対するロイヤルティはリモートワークをしている人のほうが高いという結果が出ています。
ワクチン接種でも同じような結果になる可能性があります。つまり、いち早く職域接種の準備を進めてワクチン接種を実現した会社では、ロイヤルティやエンゲージメントが上昇することも考えられます。
これまで企業の人材開発は、従業員のスキルアップを図ることに注力していましたが、今後は従業員の健康を維持・増進することにもっと焦点を当てるべきでしょう。コロナ対策は健康経営の一貫であり、それができる会社なのかどうかが従業員から強く問われるようになると思います。