コロナ禍でテレワークや「巣ごもり」によって自宅で過ごす時間が増えたことで、可処分時間を有意義に使おうと「独学」がブームになっている。
情報や技術が瞬く間にアップデートされ、既存の知識や常識があっという間に陳腐化して通用しなくなるいま、時代に取り残されないためには「独学」で最新の知識やスキルを習得することが必要不可欠だ。
しかし、 いざ独学をするとなると、どう進めればいいのか戸惑う方も多いだろう。SNSでも「やり方が見当もつかない」「何から始めればいいんだろう」などと、独学の方法や手順に悩んでいる人たちの声が多数上がっている。
そこで、独学の指南書になるのが、MBAを取らずに独学で外資系コンサルになった「独学のスペシャリスト」の独立研究者・山口周氏が実践している、知識を使いこなす最強の知的生産メソッドを明かした『知的戦闘力を高める 独学の技法』だ。
本書では、独学を「①戦略②インプット③抽象化・構造化④ストック」という4つのモジュールから成るシステムとして考え、各ステップの質を高める方法を紹介している。
本稿では、『知的戦闘力を高める 独学の技法』から一部を抜粋・編集し、山口氏独自の独学システムのうち、「②インプット」の具体的な方法について解説する。(構成/根本隼)

古い知識にしがみついてばかりの「残念な人」にならないための効果的なインプット法とは?Photo:Adobe Stock

目的を意識しない読書は生産性が低い

 具体的な「読書の技法」について述べたいと思います。本の読み方は「読書の目的」によって変わってきます。

 ここは注意が必要なポイントで、世の中には本書以外にも、さまざまな「読書法」に関する著作があって、その多くに私も目を通していますが、本によってかなりアプローチが異なります。場合によっては真逆の主張をしている書籍もあって、一体どっちのやり方が正しいのだろうか、と一時期私も頭を悩ませたことがあります。

 なぜそういうことが起こるのかというと、著者それぞれが念頭においている「読書の目的」が違うからなんですね。その点を踏まえず、「読書の方法」と「読書の目的」を当てずっぽうに組み合わせても、生産性の高い読書は不可能です。

読書の四つの目的

 読書には、大きく次の四つの目的があります。

①短期的な仕事で必要な知識を得るためのインプット(主にビジネス書)
②自分の専門領域を深めるためのインプット(ビジネス書+教養書)
③教養を広げるためのインプット(主に教養書)
④娯楽のためのインプット(何でもあり)

 まず「①仕事で必要な知識を学ぶための読書」はわかりやすいですよね。異動して新しい分野の仕事をすることになったり、新しくプロジェクトに参加することになったりした場合、当該分野についてのリテラシーを持つことが必要になります。

 そのような場合が①に該当します。時間軸は1日からせいぜい数日くらいの短期間で、狭く浅く学ぶための読書ということになります。

 次が「②専門領域を深めるための読書」です。これは、自分が専門としている領域について、知的ストックを厚くしていくための読書です。専門家としての知的ストックを作っていくことが目的ですから、時間軸は数年、場合によっては数十年ということになり、狭く・深く学んでいくための読書ということになります。

「深い知性」を生む読書とは?

 次が「③教養を深めるための読書」です。これは、直接的に仕事には関係がないけれども、人間や社会のありようについて深い洞察を与えてくれる教養を得ることを目的にする読書です。

 直接的に仕事には関係がないと書きましたが、逆にいえば間接的にはあるわけで、いままでのセオリーや知識が役に立たないような局面においては、こういった「深い知性」の有無が、その人の知的戦闘力を大きく左右することになります。

古い知識にしがみつく「残念な人」にならないためには?

 技術やビジネスモデルの「旬の期間」がどんどん短縮化しつつある現在の社会では、ある局面で有効だった知識が、すぐに時代遅れになります。このとき、多くの人はいつまで経っても時代遅れになった方法論や知識にしがみついて、「困った人」「残念な人」になってしまうのです。

 この状況を防ぐにはどうするか?一言でいえば「教養」ということになります。仕事をする上で求められる専門知識は、技術やビジネスモデルの転換に従ってどんどん時代遅れになってしまう。そのようなとき、「自分はどのように振る舞うべきか」や「これから何が起きるのか?」といった難問を考える際に、思考の礎となるのは教養しかありません。

 最後が「④娯楽のための読書」です。これは、もうそのままでエンターテインメントとして、楽しむためだけに読む読書ということになります。その幸せな時間こそが原資であると同時に報酬になっているわけですから、純粋にその時間を楽しみます。

どの目的モードで読書しているのか意識することが重要

 ここまで読まれて恐らく気づかれた人も多いと思いますが、実際には上記の目的は、同じ本を読みながらも行ったり来たりすることになります。娯楽のために読んでいる小説であっても、その多くは人や世界の見方に示唆を与えてくれるでしょうし、場合によっては専門家としての知的ストックに貢献するような情報もあるでしょう。

 重要なのは、自分がいまどの目的モードで本を読んでいるか、ということに意識的になる、ということです。そして、その意識された目的に応じて、読書のアプローチやテクニックを使い分けることが求められる、ということです。
(本稿は、『知的戦闘力を高める 独学の技法』から一部を抜粋・編集したものです)

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