コロナ禍でテレワークや「巣ごもり」によって自宅で過ごす時間が増えたことで、可処分時間を有意義に使おうと「独学」がブームになっている。
情報や技術が瞬く間にアップデートされ、既存の知識や常識があっという間に陳腐化して通用しなくなるいま、時代に取り残されないためには「独学」で最新の知識やスキルを習得することが必要不可欠だ。
しかし、 いざ独学をするとなると、どう進めればいいのか戸惑う方も多いだろう。SNSでも「やり方が見当もつかない」「何から始めればいいんだろう」などと、独学の方法や手順に悩んでいる人たちの声が多数上がっている。
そこで、独学の指南書になるのが、MBAを取らずに独学で外資系コンサルになった「独学のスペシャリスト」の独立研究者・山口周氏が実践している、知識を使いこなす最強の知的生産メソッドを明かした『知的戦闘力を高める 独学の技法』だ。
本書では、独学を「①戦略②インプット③抽象化・構造化④ストック」という4つのモジュールから成るシステムとして考え、各ステップの質を高める方法を紹介している。
本稿では、『知的戦闘力を高める 独学の技法』から一部を抜粋・編集し、山口氏独自の独学システムのうち、「④ストック」の役割について解説する。(構成/根本隼)

「貧弱なアウトプットしか出てこない人」にならないためにやるべき知識の整理法とは?

記憶に頼らないで自在にアウトプットするには?

 いかに大量かつ良質の情報をインプットしたとしても、それらのインプットを知的生産の文脈に合わせて自由に活用できなければ意味がありません。

 最大のポイントは、記憶に頼らないという心構えを持つということです。「インプットした情報をストックする」と聞けば、多くの人は「インプットされた情報を脳内に記憶する」ことをイメージするでしょう。

 しかし、これは大きな勘違いです。私たちのほとんどはごく普通の記憶力しかありませんから、脳内の記憶だけに頼って知的生産を行うとアウトプットはとても貧弱なものになってしまいます。

情報を「魚」、世界を「海」と考える

 さて、記憶に頼らずにどうやって知的ストックを扱うかという問題について、情報を「魚」、世界を「海」と捉えるメタファーを用いて考えてみましょう。

 さまざまなメディアを通じて情報をインプットし、それを脳内に記憶させようというのは、いわば世界から釣り上げた情報という魚を、脳という小さな冷蔵庫にしまい込んでしまうのと同じことです。

「脳」=小さな冷蔵庫はキャパシティが小さすぎる

 確かに手軽で使い勝手はいいでしょう。しかし、冷蔵庫に貯蔵できる材料は種類も量も限られており、必然的に調理できる知的生産物には広がりも驚きも生まれません。脳内ストックに知的生産の材料を頼ってしまうと、文脈に応じて柔軟な知的生産を行うことは難しいでしょう。

 では、釣った魚は冷蔵庫にしまわず、キャッチ&リリースで海に返せばいいのか?いや、それも非効率的でしょう。せっかく釣り上げた情報という魚をリリースしてしまうことは、要するに完全に忘却してしまうということですから、いつまでたっても知的ストックは積み上がらず、当たり前ですが知的戦闘力も向上しません。

 つまりインプットされた情報は、世界という海に返しても、脳内という冷蔵庫にしまっても、うまくいかないということです。

「脳の外部ストック」=イケスに情報を泳がせる

 そこで私が提唱したいのが、イケスをつくってそこで情報という魚を放す、というアプローチです。いま世界中の海を泳いでいる魚=情報に私たちは比較的自由にアクセスできるようになっています。

 このような世界において、わざわざキャパシティの小さい自宅の冷蔵庫、つまり脳内に魚をしまっておくのは、料理のレパートリーを狭めるだけでデメリットの方が大きい。

 であれば、世界という海から必要に応じて最適な魚=情報を拾い上げ、それを海の中につくったバーチャルなイケスの中に生きたまま泳がせておき、状況に応じて調達する方が合理的だということです。

 必要な情報はイケスの中にいるわけですから、詳細までを全部記憶する必要はありません。関連するキーワードやコンセプトをイケスに紐づけておき、必要に応じてそのイケスから検索できればそれで十分ということです。

(本稿は、『知的戦闘力を高める 独学の技法』から一部を抜粋・編集したものです)