コロナ禍でテレワークや「巣ごもり」によって自宅で過ごす時間が増えたことで、可処分時間を有意義に使おうと「独学」がブームになっている。
情報や技術が瞬く間にアップデートされ、既存の知識や常識があっという間に陳腐化して通用しなくなるいま、時代に取り残されないためには「独学」で最新の知識やスキルを習得することが必要不可欠だ。
しかし、 いざ独学をするとなると、どう進めればいいのか戸惑う方も多いだろう。SNSでも「やり方が見当もつかない」「何から始めればいいんだろう」などと、独学の方法や手順に悩んでいる人たちの声が多数上がっている。
そこで、独学の指南書になるのが、MBAを取らずに独学で外資系コンサルになった「独学のスペシャリスト」の独立研究者・山口周氏が実践している、知識を使いこなす最強の知的生産メソッドを明かした『知的戦闘力を高める 独学の技法』だ。
本書では、独学を「①戦略②インプット③抽象化・構造化④ストック」という4つのモジュールから成るシステムとして考え、各ステップの質を高める方法を紹介している。
本稿では、『知的戦闘力を高める 独学の技法』から一部を抜粋・編集し、山口氏独自の独学システムのうち、「③抽象化」のノウハウについて解説する。(構成/根本隼)

「専門バカ」ではなく「本当の知性」を手に入れるために必要な独学のスキルとは?Photo:Adobe Stock

抽象化によって知識が「生きた知恵」に変わる

 独学によってインプットした知識を、仕事における成果につなげるためにやらなければならないこと。それは「抽象化」と「構造化」です。特にリベラルアーツの読書で得られる「知識」は、ビジネス書で得られる知識とは違って、そのままビジネスの世界で活用することはできません。

 ルネサンス期において生み出された傑作の多くは、行政組織ではなく、個人のパトロンがスポンサーになっていたケースが多いとか(美術史における知識)、蟻塚には一定程度遊んでいる蟻がいないと、緊急事態に対応できずに全滅するリスクが高まる(生物・生態学における知識)といった知識は、それだけでビジネスの世界における洞察や示唆にはつながりません。

 こういった知識を、ビジネスの世界における「生きた知恵」に転換するには「抽象化」が必要になります。抽象化とは、細かい要素を捨ててしまってミソを抜き出すこと、「要するに〇〇だ」とまとめてしまうことです。

山口周氏による抽象化の具体例

 先ほどの例を用いて「抽象化」をしてみましょう。

事実①
ルネサンス期において生み出された傑作の多くは、行政組織ではなく、パトロンがスポンサーになっていたケースが多い

抽象化①
歴史に残るような偉大な作品を作るには、合議よりも審美眼を持った単独者による決定が必要?

事実②
蟻塚には一定程度遊んでいる蟻がいないと、緊急事態に対応できずに全滅するリスクが高まる

抽象化②
平常時の業務量に対して、処理能力を最適化してしまうと、大きな環境変化が起こったときに対応できず、組織は滅亡してしまう?

 お気づきの通り、抽象化された示唆や洞察の最後には「?」が付くことになります。なぜ「?」が付くかというと、それが「仮説」であって「真実」ではないからです。

 抽象化がなぜ大事になるかというと、個別性が低下するからです。いろいろな状況に適用して考えることができるようになるわけです。

「専門バカ」ではなく「ルネサンス人」になれ

 知識の抽象化はまた「専門バカ」に陥る愚を避け、領域を横断する「ルネサンス人」になれるかどうかという点にも関わってきます。

 皆さんの周りにもいませんか?ある領域については驚くほど深い「知識」を有しているのに、その知識が他分野での「知恵」につながっていないように思える人です。

 このような人の特徴は、覚えた知識を抽象化せず、そのまま丸覚えしているという点です。抽象化していないために、他の場面への応用がきかない。本当の知性というのはそのようなものであってはなりません。知性とはもっとしなやかものであるべきでしょう。

 専門家というのは、過去の蓄積をたくさんやっている人です。一方で私たちは、変化の激しい時代に生きています。つまり、常に「未曾有の事態」に向き合っているわけです。そのような時代において、過去の蓄積に通暁している人に対して、大きく依存することのリスクは少なくありません。

(本稿は、『知的戦闘力を高める 独学の技法』から一部を抜粋・編集したものです)

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