天安門Photo:PIXTA

中国の深刻な人権侵害に対し、欧米諸国は厳しい制裁を科している。人権侵害はウイグルなど少数民族にとどまらず、漢族や香港に対しても深刻だ。だが日本では、経済的な理由から欧米の姿勢とは一線を画すべきだとの声が依然として強い。戦後、民主主義や人権を重要な価値に据えてきた日本は、これでいいのだろうか。(東京大学大学院教授 阿古智子)

対中関係の、経済的な事情から懸念
「長いものに巻かれた方がいい」なのか

 6月から7月にかけて、中国共産党建党100周年に合わせた企画や、香港やウイグル問題に関する取材や原稿執筆の依頼が多く、NHKの「日曜討論」や月刊誌「文藝春秋」の対談にもお招きいただいた。

 それらを通して改めて感じたのは、中国をめぐる人権問題が国内でも頻繁に論じられているにもかかわらず、やはり、中国との関係悪化による経済への影響を心配する声が多いということだ。もう少し言い方を変えれば、「経済的に力を持つ中国に抵抗するのは得策ではなく、長いものには巻かれた方がいい」という考え方が、日本社会に浸透しているように感じる。

 戦後日本は民主主義の道を歩み、その根幹に、司法の独立や言論の自由など、重要な思想や価値意識を据えてきた。中国との向き合い方を通して、むしろ問われているのは、私たち日本の社会のあり方ではないだろうか。